目が合った瞬間びっくりした、まるで射抜かれたような衝撃。
だってこれまでブラウン管越しでも見たこと無い、お人形みたいなとびっきり綺麗な子だったんだ。
洗練された空気を持ってて、顔はちょっと冷たい感じの美人。
監督の姪御さんだって聞いて妙に納得した。ふたりとも、同じような印象を他人に与えていたから。


「ねぇ?鳳くん」


本当の冷たい人じゃなく、会話の流れに上手く乗れなかった俺をさり気なく拾ってくれる優しさもちゃんと持っていて。
そういう初対面の相手に気を遣わせない人間的な部分を知ったからか、ますます気になったのかも。

コートに付くまでの間、どういう経緯で氷帝に来ることになったのかを聞いた。
そうしたら、現在彼女の血縁者は監督だけなのだとという。
どうして伯父・姪という関係でこんなにも気安く親密なのか、なんとなく分かった気がする。

話を聞いて、家族は健在の俺には彼女のこれまでの大変さや気持ちは全然解らないけど、とても可哀想だと思った。
こう思うのはもしかしたら失礼なのかもしれない。
でも、暗さを感じさせないよう自分の事を淡々と語る彼女が悲壮に見えたから。

コートに付くと、少しざわめきが起こる。監督が来たから緊張感と、その監督が連れている彼女の、えと、の存在からだろう。
(彼女が、苗字だと監督と紛らわしいから名前で呼んでほしいと言ってくれたから、俺はその通りしてるだけ。それだけだから。)
そのざわめきは跡部さんの怒号混じりの号令でピタリと止まる。
レギュラーを前列に据え部員が整列を完了させると、監督は二言三言に言葉を掛けてから俺たちの前に立った。

監督が指示を出している最中にも関わらず、部員のほとんどがさっきの俺みたいに好奇心の視線を
今見るべき人物を通り過ぎ、ベンチに腰掛け、監督のジャケットを肩に羽織るへと向けている。
流石にレギュラーはみんな真剣で前を向いて話に集中していたけれど、
好奇心の強い向日さんや芥川さんなんかは視線を向けないまでも少しだけそわそわしているようだった。

俺もまた、そわそわしている。
それは今この瞬間、が何者かを知っているのが俺だけだという事実に優越を感じているから。
口元なんて、うっかり緩んでしまいそうだ。

でもその優越も、呆気なく崩されてしまう。
監督が部員に紹介したわけでも、ましてが立ち上がって自分から名乗った訳でもない。


「……お前、じゃねーか」


解散後それぞれが準備を始める中、ベンチへと近づいたのは氷帝(うち)の頂点。
俺の憧れてる先輩の一人で、テニスが強くていつも堂々とした振る舞いで正しく人の上に立つ器を持つ人。
その、いつでも俺の上に居て敵わない人相手に、敵わないことがまたひとつ増えてしまった。

元々の知り合いなんだろうとか、そういう可能性が全然頭に浮かばなかったくらいショックを受けたみたいだ。
軽々としてみせた名前呼び。こんな小さなことでも、跡部さんは俺を難なく飛び越えて行ってしまった。

俺は気づかないうちに下唇を噛んでいた。
その痛みで頭が冴え、ハッと我に返った俺は指定されたコートへと慌てて走った。










跡部と遭遇。長太郎の嫉妬(軽傷)。



作成2011.07.14きりん