(※立海妄想選択バトン、お話部分のみ再録。最初のふたつ以外ガッカリな産物なので、各自判断シクヨロ)





■起床

「おはよう、珈琲でも飲むかい?」朝から超絶スマイル、幸村

―――

カーテンから差し込む柔らかい光と、すんと鼻をくすぐる良い香りは、
止まったところを彷徨っていた私をゆっくり元の世界へ浮き上がらせた。

赴くまま上半身だけ身体を起こすと、彼の選んだ淡いライトブルーのシーツがしゃらりと音を立てる。
確か昨晩はその彼と同じベッドに入ったはずなのに。ひとり分空いている隣が妙に寂しく感じてしまう。
何だかベッドと一緒に胸の中までポッカリと隙間が空いてしまったようで、心がキュウって締め付けられた。
部屋の中をぐるりと見回してみても彼の姿はどこにも無くて。
切なさと言い知れない不安。一辺にやってきた感情は寝起きの脳にはとても制御しきれないくらい複雑で。

「……精市」

こらえられなくなって彼の名前を口に出す。
小さい声、ここにいない彼になんて届くはずがないくらいの。

そのとき、キィと部屋のドアが音を立てた。
気付いて目を上げると、そこには一番会いたくて恋しくてたまらない人の眩しい笑顔。

「ねぼすけさん、おはよう、珈琲でも飲むかい?」
「………うん。あのね、……ミルクが、たっぷり入ったのが良い」
「ふふ、わかってるさ。用意しておくから早くおいで。あぁ、二度寝なんてしちゃダメだよ」

頭を軽くぽんぽんと叩かれると、あんなにぐるぐるしていた頭の中が途端にクリアになった。
寂しさや切なさや不安な気持ちは全部、嬉しいに書き換えられて。
彼が出て行って再び部屋に静寂が戻ってきても、それは変わることはなかった。

―――

■登校

「さぁ、行きましょう」優しく手を取って歩き出す紳士、柳生

―――

「おはようございます」
「おはよう、比呂」
「さぁ、行きましょう」

心配性(私に言わせたら紳士じゃなくて、心配性なの)の比呂は
隣に並んで一緒に歩くときは必ず私の左手を取って、車道側を歩いてくれる。
幼馴染で、ずっと同じ学校で登下校も一緒にしていて。
そのときから続いている手繋ぎ、中学三年生になった今でも変わらない私たちの習慣だ。

比呂が中学で強豪のテニス部に入って、朝練のために朝7時集合になってもそれは変わらない。
本来なら私は始業時間までに学校に行けばいいんだけど、朝早くに無理して起きて、比呂と一緒に学校へ行っている。
比呂は「私のことは気になさらないでください」って言ってたけど、私がそうしたいの。
だって比呂の右手に優しく包まれてるこの時間が大好きだから。

「ふふっ」
「どうなさいました?」
「比呂の手、小さいころと比べて逞しくなったなーって、……思って」

筋張って堅くて、豆がたくさん出来ている努力の手は、同じくらいの大きさだったのに、とうに私の倍ほどになっていた。
どんどん逞しく成長していく比呂が、ちょっと遠くに感じてしまうくらい。
それを何処かイヤだと思っているから私は意地になって、早く起きてまで比呂にくっついてるのかも。
そんな甘えたで寂しがりの幼馴染から、本当は早く解放した方が比呂にとって良いんじゃないの?―――

「そうですね。……貴女をお守り出来るくらいには、なったつもりです」

―――

■授業中

「暇じゃのう・・退屈じゃ・・お前さんもそう思わんか?なぁ?」先生なんて眼中になし、すごく話しかけてくる、仁王

―――

「暇じゃのう……退屈じゃ。………お前さんもそう思わんか?なぁ?」

出たよ。まーた、はじまった。仁王の猛攻、仁王のターン。エンドはヤツが飽きるまでやっては来ない。
ヤツはまず、授業中でもお構いなしに私の背中を突いてくる。ある時はシャーペンのうしろ、ある時はマジックの細い方。
赤ボールペンのふたが開いていてブラウスの背中に北斗七星を描かれたことも。あれはマジ信じらんなかった。
(まるでケンシ○ウじゃのーとケラケラ笑う仁王の顔が今でも忘れられない。第一ケン○ロウの北斗七星は胸だ、胸。
あのときは秘孔探し当てて突いて●っちまおうかと本気で思った。あのときの私なら出来る気がした。だって背中とはいえケ○シロウだったから)

突っつかれての無視を決め込んだときに繰り出される、ヤツの他の攻撃ラインナップは
消しカス爆弾(量産された消しカスを周辺に撒かれる、最終的には消しゴム本体が。消しゴム勿体ないから止めろ)
紙飛行機襲来(ちぎったノートで作られ、紙飛行機を崩すと必ず中に書き込みが。私的No.1イラッと賞は「バカがみーるー」)
怒涛のペテン(ひたすら声真似、その人が絶対言わなそうな事をボソボソと繰り出す。ハゲた先生の声真似で「今日は寝癖が酷いなぁ……」と
深刻そうに呟かれたときは流石に机に突っ伏せた。だってその時間はその先生の授業で目の前にその先生がいたんだもん。勿論、寝癖るような髪量は無い)
などなど。

どれもこれも下らないんだけど、こう毎回繰り返されると地味にクる。
今日は苛々が最高潮だったから背中を突っつかれただけでキレてしまった、今が授業中なのも忘れて。

「あーもう鬱陶しい!いい加減にしろっ!」
「ほう、良い度胸だな」
「げっ、先生!あの、その……」
「授業の残り時間は廊下で正座、放課後は職員室に来い。反省文を書く用紙と特別課題をやろう」
「えぇ!そんなぁ!」
「……プリッ」

仁王をチラリと見るも、完全に私から目線を外しどこ吹く風。その口元にはしてやったりな笑顔が浮かんでいる。
不本意ながら、こうして私は只のクラスメイトからヤツの(完全に思い通りの反応を返してくれる楽しい)玩具状態に今や成り下がってしまった。
神様仏様お願いです、早くこの地獄から私を救ってくださいっ。むしろ先生、早く、早く席替えをしてください……!

廊下に出るとき恨めしい思いからもう一度チラっと仁王を見ると、満面に優しい笑みを湛えて私を見ていて、ドキリとした。

―――

■休み時間

「あ、いや…今親父の就職先探してて…」一生懸命バイトの広告を見ている、ジャッカル

■昼休み

「あ…弁当ないんだった……少しもらってもいいか?」弁当を“忘れた”ではなく弁当が“ない”ジャッカル

―――

「ジャッくん、一緒にお昼食べようよ」
「あぁ。良いぜ、って、あ……弁当ないんだった……あー、あのさ。悪ぃんだけど、少しもらってもいい、……か?」
「良いよー、全然良い!あ、半分こしよ、私いつも食べきれないから」
「そうなのか?サンキュー」

同じクラスのジャッくんのお家は大変みたい。この頃の休み時間は広告だったりフリーの情報誌を眺めて過ごしているんだもん。
あんまりにも真剣だったから、何か欲しいものでもあるのかなって思って(中学生だから出来ても新聞か牛乳配達くらいしか無いかもだけど)
バイトでもするのー?って軽い気持ちで聞いてみたら、お父さんの就職先探してるとか言われちゃって。ちょっと肝が冷えた。
言葉に困っちゃったから、とりあえず地元のハローワークに登録することを勧めておいたけど。

そういうことを聞いちゃったもんだから、ジャッくんのことが色々気になっちゃって。
まさか、ねぇ……って思いつつお昼誘ってみたんだけど、案の定だった。
机くっつけて、お弁当箱のフタに半分よりちょっと多目にご飯とおかずを盛ったげて。
私がそうしてる間に自慢の俊足で購買部に走って割りばしを貰ってきたジャッくんは机の上のご飯を見て目をキラキラ輝かせた。
一緒に食べたお昼ご飯はお喋りも盛り上がってとっても楽しかったけれど、味はなんだかしょっぱく感じた。

余計なお世話と思いつつ、次の日から私は家で一番大きいお弁当箱にご飯とおかずをギュウギュウに詰めて学校に持って行った。
それで、毎日ジャッくんをお昼に誘ってお弁当を半分こして食べた。お弁当全部食べきれないから、食べてってお願いして。
ジャッくんは私が余計なことをしているって多分気がついていたけど、何も言わないでいてくれた。
きっとジャッくん、プライドとか傷つけてるはずなのに。何も。
眩しい笑顔と楽しいお喋りだけを提供してくれるジャッくんに、私も何も言えなかった。

ある日のお昼、いつもの通りジャッくんをお昼に誘ってお弁当半分こして食べてたら、ジャッくんが切り出してきた。

「……いつも、ありがとな。お前の優しさ、嬉しかったぜ。だけど、もういいんだ」
「え……そんな、……私、……ごめん、ジャッくんを傷つけてたよね」

あんまりにも真剣な顔をして言うもんだから、やっぱり迷惑だったんだ、って。
そういう自分の偽善に呆れて身体も声も心も全部凍りついた気がした。
涙が出そうになって下を向いてしまった私に、ジャッくんは慌てて声を掛ける。

「ん?あっ、違う、誤解すんな!あのな、親父の就職が決まったんだ!」
「へ?」
「お前が言ってくれたハローワークってのに登録したら、丁度親父にピッタリな仕事の求人があってさ」
「そ、そうなの?」
「おう。今やブラジル料理店の料理人だ。今までも料理屋に勤めてたし調理師免許も持ってるから、一発で決まったぜ」
「えぇっ、そうなんだ!良かった、本当に良かったー!なんだか私まで嬉しいよう……!」
「ハハッ、大袈裟だな。でも、そうやって一緒に喜んでくれて、なんだか俺も嬉しいぜ」
「お祝いしなきゃ、ちょっと購買部行ってコーヒー牛乳でも買ってくるよ私、乾杯しよっ」
「待て待て!そんなのいいって。むしろ俺の方が礼をさせてくれ」

そういう訳で。後日、これまでのお礼ってことでジャッくんのお父さんが勤めるブラジル料理店に招待してもらった。
いつもより眩しい笑顔のジャッくんとの楽しいお喋りは、今までで一番盛り上がって本当に楽しくて。
ご飯ももちろん、ほっぺが落ちそうなくらい美味しくて。とっても幸せな味だった。

―――

■下校

「………手、繋いでいいか?」なんだか積極的な柳

―――

単に表して無いだけなのかもしれないけど感情の起伏が少なく、常にと言っていいくらいポーカーフェイスな先輩なのに、
今日は何故だか落ち着きが無い、ような気がする。どこか“そわそわ”しているというか。気にしなければ解らないレベルだけど。
昇降口で会ったときからもう既にそんな様子だったから、具合でも悪いのかなって思ったくらい。

「もう暗い。送っていこう」
「あ、すみません、ありがとうございます」
「気にするな。行くぞ」
「はい」

むしろ私が気になるのは送って頂いて申し訳ないなっていうことより、先輩自身の方なんですけど。
淡々とデータを語るとき以外は物静かで口数は少ない方だと思うけど今日はそれがより一層少ない、言葉も何だか単語調だし。
一体どうしたというんだろう?何か、心配事でもあるのだろうか。
聞いてみたいような気もしたけれど、触れられるのがイヤな事かもしれない。

そんなことを悶々と考える私と、変わらず落ち着きの無い先輩との間には、一緒に歩いているのに全く会話が無い。
これまで何度か一緒に帰ったときも沈黙する時間はあったけれど、今日は昇降口でのやり取りの後ここまで本当に一言も無い。
いつもの沈黙は全然苦じゃないけれど、今日は何だか別の緊張感がある。
私から何か喋った方が良いのかな、いや、先輩が喋るまで待った方が良いのかも。また別の葛藤が頭の中で始まり、スパイラル。

「良ければ……」
「えっ?」
「お前さえ良ければ、だが。………手を、繋いでも、構わないか」

突然先輩に言われた意外な言葉に、頭の中を吹き荒れていた嵐はピタリとやんだ。
手を繋ぐ?何それ?言葉の意味を理解するのにシャットダウンした脳を再び起動させていたら、
先輩は私の沈黙を否定と受け取ってしまったようで。

「あぁ……いや、忘れてくれ」
「………あっ、はい!繋ぎましょう!」
「……良いのか?」
「勿論ですよ!どーぞっ」
「うっ」

慌てて手を出したら勢いがよすぎたようで、私は先輩の太モモにチョップをかましてしまった。

「あぁっ!ごっ、ごめんなさい!何だか焦ってしまって……」
「く……くっくくく………いや、大丈夫だ。痛みは全くない」
「ごめんなさい……ってか笑わないでください……」
「すまない。……お前は時折、予測がつかないから面白い」
「う……」
「貶しているわけでは無い。………俺は気付かぬうちに堅くなっていたようだ。和ませてくれて、ありがとう」

最後の方は良く聞こえなかったけど、落ち着いた先輩に戻っているしこれで良かったんだろうと思いたい。
では改めて、と仕切り直しに繋いだ手はとても温かかった。

手を繋いでからの先輩は、さっきまでと違ってよく口を開いてくれるようになったし、口調も滑らか。
もしかして、「手を繋いでいいか」って言おう言おうとしてあんなにそわそわしてたんだろうか。
でもたったそれだけのことで、あんなに大人な柳先輩が?……まさかね。

―――

■告白

「好きだよ。君の彼氏になれたら嬉しいな……ふふっ」最後の笑いは何でしょうか!?妖しく微笑む、幸村
「好きだ」一言だけ言って、あとは真っ直ぐ見つめる、漢な真田
「好き、だ。俺と付き合ってくれないか」見間違いか、顔がすごく赤い、柳
「貴女とお付き合いしたいです」言いながらふんわり微笑んだ、柳生
「好きじゃ。愛しとる」心なしか、ほんのり顔が赤くなってる気が…仁王
「お前が好きだっ!世界で一番好きっ」すごく直球、少し目がうるうるしながらも一生懸命言った、丸井
「あーその…俺じゃ、駄目か?その、お前の彼氏…」遠回しに言いながらも顔が、頭が真っ赤なジャッカル
「付き合っちゃいません?」言葉は軽い感じ、だけど瞳は真剣で少し頬が赤い、切原

―――

好きで好きでたまらないこの気持ち、どうしてもあの子に伝えたい。
その一心で誠心誠意を込め、真っ直ぐに思いの丈をぶつけた。
上手くいっても玉砕しても恨みっこ無し、彼女の選択を真正面から男らしく受け止めようじゃないか!

「アンタ達、告白の練習なら他所でやんなさい。私は忙しいのっ」

整列したレギュラーをまとめ斬りしたマネージャーは、タオルがたっぷり詰まった洗濯カゴを持って走り去ってしまった。
残された彼らは呆然と立ち尽くし、彼女をただただ見送るしかなかった。

―――










すんまそん



作成2011.04.11きりん