(跡部様と歌姫様・ハイソな世界を目指した産物)





氷帝学園では、毎年秋になると総合芸術鑑賞会と銘打った文化祭が開かれる。
それは各文化部の創作物の展示やステージでの発表が主たる内容で、
文化部所属の人間はここぞとばかりに力を入れて臨む行事だ。
ただ、この催しの中で一番の注目を集め一番の喝采を浴びるのは吹奏楽でも演劇でも無く―――



>> The Princess of aria ,



只でさえその容姿のお陰で人目を引いているというのに(まぁ、俺様ほどでは無いがな。)
文化祭前後のこの時期、より一層の注目度が増すのは。


「よう。よく来たな、お姫様」
「……景吾くんにそう呼ばれると、びみょー」
「アーン?てめぇ、先輩には敬語を使え敬語を。」
「それで御用は何で御座いましょう?跡部会長」


生徒会室で俺に対面し、わざとらしく恭しい態度を取り笑顔を浮かべているコイツ。
氷帝きってのプリンセスと称される2年生。
目鼻立ちの整った顔にスラリとした体躯の恵まれた容姿の持ち主であり、俺と並ぶほどの家の産まれで。
何より素晴らしいのは、その歌声。


「分かってんだろうが。文化祭でやるアリアの話だ。」
「あらぁ。わたくしなんかにそんな大役、務まりますでしょうか」
「お前がやらねーで、他に誰が出来るかよ。」


文化祭で一番の目玉は、代表生徒によるアリアだ。
氷帝では芸術方面への教育にも力を入れていて、中でも音楽は留学制度を取り入れるほど熱心。
レベルが高いと評判で、文化祭で行われる音楽ステージは音楽学校や果てはプロからの注目までされているほど。
それは、スポットライトを浴びることの出来る人間が極わずかしかいない厳しい世界へ踏み込む為の、大きなチャンス。

実際に、歴代でアリアを歌ってきた氷帝卒業生にはプロになった声楽家が多い為、
それに続かんとばかりに氷帝に入学し、ひたすら音楽に打ち込む生徒は多い。
まぁ、高みを目指す傍ら、……足の引っ張り合いなんかも陰でしているようだが。
そんな訳で、文化祭でアリアを歌う代表は教師が選ぶとはいえ、毎度し烈な争いを繰り広げている。

毎年のように行われる醜い争いは、代表に選ばれるのが大抵3年生という事もありそこまでの大事にはならないのだが、
去年に限っては少し事情が違った。
選考責任者である榊監督が代表に選んだのが、9月に編入したばかりの1年生だったからだ。
それも、その1年が榊監督の姪だということでますます波紋は広がりを見せた。

納得出来ない、身内贔屓だ。という至極最もらしい意見(という名の反発だな。)が出るのも当然のことで。
その1年は編入してから3ヶ月ほどの間、針のムシロに座り続けた。
が、しかし。文化祭で歌ったアリアにてそれらを見事に払拭。反発していた人間はその歌声に否応なしに聞き惚れ、絶句。
その後妬みからの反発が多少あったものの、無事平穏な学校生活を手に入れたそいつは。
自らの歌声で、文字通り周囲を黙らせたのだ。

その1年というのが、まぁ察しの通り。コイツだ。


「お前の実力は周知の通りだ。文句なんぞ出やしねぇ。むしろ出させねぇがな」
「ま、たのもしい。頼りにしていますわ、跡部会長」
「……やっぱりいつも通りにしやがれ。気持ちが悪ィ」
「なによう。景吾くんが言い出したクセに」


彼女は頬を膨らませプリプリと怒りながら、ソファへ乱暴に腰掛けて。
それに相反するような、穏やかで、上品な振る舞いで紅茶を口に運ぶ。
何気ないことだが、その姿は矢張り生まれの良さを伺わせた。
ゆっくりひとくち飲み込むと、ガラステーブルに置かれた文化祭の概要が書かれた書類に目を通し始める。


「何か質問が有ったら云え」


そう言うと、彼女は黙ったままだったが軽く手を挙げ了承の意を示す。
それを確認した俺も、目の前の飲み頃の温度のカップを手に取り、口を付けた。










(*´ω`){うはあ笑)



作成2010.04.06きりん