(変換主は柳生の双子(二卵性)妹。若干ウツっぽい。※柳生仁王入れ替わりの勝手な考察風のものも含まれてますのでご注意ください。)





海志館にある資料室のひとつに籠ってノートをまとめている蓮二に一方的に付き合ってた放課後、
蓮二の座ってる椅子の脚を背もたれに床に座り込んで携帯を弄ってたけど、そう長い時間してられることじゃない。
飽きてしまった携帯を閉じて、近くに置いてた鞄の中に仕舞う。そこから手持無沙汰。キョロキョロ首を回すと目の前にあるのは蓮二の長い足で。
悪戯心からそれに本格的に向き直ってちょんちょん突っついてみたりぎゅーって抱きついてみたりしたけど、蓮二は全然動じなくてつまんない。


、くすぐったい」
「えー?全然反応無いじゃん。うそつきーぃ」
「フッ、本当だ。構って欲しいのなら口頭で頼む。俺は手も口も、頭も同時に動かせるからな、話し相手は可能だ」


前にテニスをしているときの蓮二を見たけど凄かった。
ラリー中対戦相手とお喋りするわ、その内容がデータとかなんとか言ってたから頭も動かしてるんだろう、勿論プレイをしながら。


「ん、蓮二が凄いのは知ってるー」


床を這って移動して、長机を挟んだ蓮二の向かい側に座る。目の前にあるノートをしばらく見つめても、さっぱり意味が解らなかった。
それは私から見て文字が逆になってるからって話じゃない。つくづく、頭が良いんだなぁって思った。テストの順位、ほとんど学年で一番だもんね。
でも、凄い蓮二と同じくらい、比呂も凄いんだ。比呂も頭良くていっつも十番以内とかだし、運動神経良いからテニス部レギュだし。
私と大違い。


「―――お前は比呂士と双生児というより、どちらかと言えば雅治との方がそれらしく思える」
「えっ」
「悪戯な振る舞い。“やんちゃ”なところが、だ」
「あぁ、……そだね。比呂は脚に抱きついたりしないよね」
「……」


改めて違うんだとボンヤリ考えていたところに、他ならぬ蓮二から間違いないことだと追い打ちをかけられたような気がして、確信。
思い知らされ気持ちが完全に落ちてしまった私の頭の中を巡るのは嫌な考えばかり、その後の蓮二の言葉も、耳には入ったけれど素通りして残らない。

どうして比呂と私は違うのかな。
比呂と一緒じゃなきゃって思ったから頑張ってなんとか立海入ったけど、成績はずっとパッとしないし。
一緒にテニスどころか私は虚弱だから運動自体出来ないし。比呂が大好きなミステリー小説は読んでも頭混乱しちゃうから内容が理解出来ない。
私は比呂が大好きだけど。比呂の方は、自分の半身のような存在がこんなだめな私なのは、本当は嫌なのかもしれない。


「……確かに私と比呂は似てるけど違う、双子なのに。同じ人間のはずなのに。
比呂は何でも出来て優秀なのに、どうして私はこんなにだめなの―――っ、あ……ううん、なんでもな、」
「同じ人間?何を言っている。比呂士と違うところが多くとも、なんら不思議なことではない。
双生児とはいえ、お前たちは同時に産まれただけ。他は普通の兄妹と変わらない」


ポツリと。蓮二が居るにも関わらず、つい出てしまった自分の言葉に驚き慌てる私に、その蓮二は何てことないという風に言う。
蓮二にとってはそれは本当に何でもないことないんだろう、でも、私にとってそれは今まで考えも浮かばなかった新しいことで。
目から鱗とでも言おうか。衝撃が走る。


「っ、そうなの?私……比呂と違ってても、いいの?」
「あぁ。遺伝情報も各々独自の、別のものを持っている。血の繋がりを感じさせるレベルでは似ているが、完全というには遠い。
そもそも、一卵性の場合であっても全く同じ人間というのはゼロに等しいものだ。遺伝情報は同じであっても、環境や形成される人間関係が違えばそれに沿った
ものが出来上がりズレが生じる。一日の大部分を過ごす学校のクラスが違うというだけで環境や、形成される人間関係は全く異なったものになるだろう」
「じゃあ、どうして雅治と比呂は入れ替わってもみんなが解らないくらい似てるの?なんで雅治と私は似てるの?」
「それは例外だろう。フム……人の持つ顔かたちを細かく分類したときにお前たち3人が同じグループに所属しているのがひとつ、それから、そうだな。
それ以外ではおそらくは模倣、雅治の擬態能力が高いことが原因の大部分と推測される。あとは男女の差だな。
比呂士は中学生ながら既に身体が出来上がっている。女のお前より、同じ男である雅治の体格の方が比呂士に近いのは道理ではないか?」
「分かる気はするけど、でも」
「あのふたりの入れ替わりは、優れた観察眼、見紛うばかりの演技力、どれをとっても水準の遥か上をいっている雅治に依るところが大きい。
比呂士は器用ゆえこちらも水準以上ではあるが、雅治には及ばない。比呂士の“雅治”は雅治の持つトリッキーなキャラクターに頼る、目眩ましのようなものだ。
ただし勘違いをするな、比呂士が悪い訳では無い、先程も言ったが比呂士は水準以上のものを持っている。普通は入れ替わりという芸当自体出来ない。
ただ、雅治の技巧が凄まじいんだ、異常な程にな」
「じゃあ、雅治と私に関しては?見た目はそんなに似てないと思うけど」
「ふむ。巧くは言えないが……持っている陰、だろうか。俺がはじめに言ったのは見た目ではなく、本質の話だ。この場合は精神的双子とでも言うのだろうか」
「精神的双子……」


雅治にはなぜか本音が言える。
そうだ。本当の自分、他人に見せるには憚られる後ろ暗い部分すら、単に巧みに引き出されただけなのかもしれないけれど、雅治にはするりと言ってしまえた。
精神的双子とでも言うべき、似ている陰があるから?

じゃあ、今蓮二にも、私が本当はほんの少しだけでも言いたくない本音を言ってしまったということは、蓮二もそういう部分を持っているんだろうか。
私と同じような、他人には見せられない薄暗い陰を。蓮二が?


「お前は比呂士と双子だということに固執し過ぎだ。双子には俺の解らない特別な絆もあろうが、自分とは他の人間、他人と一緒だ」
「他人って、家族なのに?そんなの冷たい」
「そういう観念の話をしている訳ではない。言ったろう、自分以外の他の人間という意味においてだ」
「じゃあ世の中はみんな他人?」
「そういう意味ではな」


淡々と。自分自身と、それ以外。その他の人間という境界線を簡単に引いてしまう蓮二の陰。
その陰が出来るまでの経緯を私は知らない。でも、それは“私に解らないことじゃない”と、漠然と思えた。
比呂と一線を介す。そう出来るかもしれないという可能性を与えられた私には。

窓の外の陽が落ちてしまうまで、あと少し。
足掻く様な夕日のぼんやりとした光に照らされた資料室の中の蓮二と私は、もうすぐ闇へと、沈んでいく。










どうやら比呂へ近づく努力を捨てたようです。
ホントは無意識ながら陰へ行くのに踏みとどまっていた蓮二さんを引きずり込む、にしたかったのに。
あれ?これはむしろ蓮二さんの陰?に引きずり込まれた?うそーん




作成2011.07.18きりん