(変換主は柳生の双子(二卵性)妹。若干ウツっぽい。)





私はバカでテンション高い、ただのなまけものなの。なまけものなんだって。そう自分のことを形容した彼女に、
なまけものはテンション低いじゃろ、とツッコミ入れたら、目を丸くしたあと弾かれたように噴出しよった。
そうよね、そうだわ!まるで一大発見をしたかのように手を叩いて喜ぶ彼女は本当の馬鹿のようじゃ。
ま、それも長くは続かず、直ぐ「ふふっ」と震わせた肩をすっかり収めてしまって、今は薄い笑みを作って顔に貼り付けとるけど。
その顔、口の両端を持ち上げ、眉と目じりを下げただけの表情のときの彼女は、外をシャットアウトしたと同義で。
それを確認すると、合わせて俺も口を閉じた。俺は特に饒舌な方でも無いからいつもと変わらんが。

一見すると優しく微笑んでいるというのに、その実、は全く笑っておらん。
瞳の奥が冷え切っとうことに初めて気づいた時は、まるで氷の刃に触れたかのように寒気がした。ちょっとした、恐怖。


柳生は、お前の兄貴は。お前さんが持っとう刃を知ってるか。


―――比呂は知らない
―――パパもママも、友達も。誰も知らない
―――雅治にバレたのが、はじめて


結果的にそうなってしまうような事をじわじわと十数年掛けて仕込んだくせに、
彼女をなまけものだと言い放ち、彼女へ負をインプリンティングした、彼女に見向きもしない無知な彼女の両親も、
常にお手本のように完璧な兄貴も、いっつも一緒につるんで笑っとるを微塵も疑わない彼女の友人達も、だーれも知らん。

なまけもの?こんなにも振り向いてもらいたくて、愛されとうて努力してる彼女の何処が?
習い事のピアノを小まい頃から休まず続けて、どっかのコンクールで賞も貰ったんじゃと(でも一度も発表会を聴きに来た事が無い)
家政婦と手伝うてもろて頑張ってメシ作って、帰ってくるんを遅くまで起きて待っとったって(でも家に帰りよらんから口に入らん)
成績は微妙やったけど死にもの狂いで勉強して、兄貴と同じ立海に入学ったんやと(でも兄貴より点数が低かったいう評価だけ)
そういうんは、全部無駄なんか?

ほら。見てほしいと願う阿呆共がそんなこと言うから、それが本当だと信じる彼女は諦めてしまったじゃないか。
期待するのに疲れ果て、本音を封印し、仮面を付けて、心を偽って、そうして、笑う。

可哀想な

真実が見えたんはこの俺だけじゃ。俺だけが知っとうの秘密、……秘密。
何処となく甘美に響くこの秘密という物に、彼女の心に巣食う、暗くて寒い深淵に触れたそのときから、俺はもうすっかり酔い痴れてしもうた。

余計な言葉なんぞ彼女にはいらん。黙ったまま、ただただそばに寄り添い目を閉じた。
衣擦れの音と共に、人の動く気配がする。ほんすぐそばに感じる彼女の浅い息遣い。
迷い続け、戸惑いを止めない手に、手を重ねた。瞳とは反する温かい手、を護れるんは俺だけじゃと強う意識する。

願わくば、このまま他の誰にも心中を吐露することなく。俺だけを拠り所にし続ければ良い、このままずっと。
この酔いは未だ醒めない。そしてこれからも、醒ますつもりもない。










理解者のフリして共依存みたいな



作成2011.06.07きりん