(変換主は柳生の双子(二卵性)妹。)





「ひーろ」
「おや、さん。どうなさいました?」
「今日ねー、雅治と遊ぶから。ゴハンいらないってエツコさんに言っといて?」
「仁王くんと、ふたりで?」
「うん。ダーツ教えてもらうのー」
「そうですか。……えぇ、了解しました、伝えておきます」
「ありがと」


じゃあ補講頑張ってねー、と。注意をしても一向に直らない(あれはもう、直す気が無いのでしょう)
だらしのない口調でそう言いながらひらひらと手を振り、さっさと私のクラスを後にした双子の妹に対し、
私は知らず知らずのうちに溜息をひとつ漏らしてしまう。

彼女は相変わらず(この私でさえも、双子だと言われても信じ難いくらい)、台風のような人だと強く思う。
予告も無く急に現れ、掻き乱し、状況を理解する間も与えず、気付けば早々に去ってしまう。そういう、慌ただしい存在。
今もあまりに一連が早すぎたせいで、スカート丈を注意する余裕すらもありませんでした。
口煩く言われるのを嫌がる彼女はおそらく、解ってやっているのでしょう。

―――あぁそうだ。もうひとつ、注意すべきことがありました。
ふと思い当たり、私は鞄の中から携帯電話を取り出し、落としていた電源を入れる。
起動画面から見慣れた待ち受けを早々に切り替え、新規メールを立ち上げ本文を入力していく。
(待ち受けは以前さんが面白がって撮影し、設定した私たちのツーショット写真。なんとなく、そのままにしてあります)

写真……確かに無理矢理だったとはいえ、眉間に皺を寄せた仏頂面では無く、少しでも笑えばよかった。
私に顔を寄せ、悪戯に舌を出してウィンクをする、楽しそうな表情のさんとは対照的な隣の自分の顔を見ると、ほんの少し後悔する。
部活で集合写真を撮ることの方が多いほど、家族で写真を撮る機会の少ない実家にとって、貴重な一枚だというのに。
もう一度写真を撮りませんかと申し出れるほど素直な勇気は持ち合わせず、見栄張りで意気地の無い私は小さな不満を募らせるばかり。


『誰にも怒られないからといって、あまり遅くならないように。出来れば、仁王くんに家まで送って頂きなさい。』


ぼんやりと考えながら打った、書いては消した何度めかの本文を見直し、可笑しい箇所が無いか注意深く確認してから送信すると、
携帯電話をひとまず机の上に置く。すれば補講のための参考書類を準備する間もなく、携帯電話が震え出した。


『りょかいー』


変換もしていなければ、伸ばす位置も微妙に間違えている一言メールに私はまた溜息を漏らし、
再び携帯電話の電源を落としてから補講が行われる教室へと向かった。










ファミリーコンプレックスみたいな



作成2011.05.31きりん