(変換主は柳生の双子(二卵性)妹。)





「蓮二、今日は進学補講ある?」


手を離せばくにゃりと折れ曲がってしまいそうなほどスカスカの、軽そうな鞄――教科書など入っていないことは明白。
彼女の持ち物はだいたいブランドものの長財布と化粧ポーチに大判の鏡、ジェル状ワックス、それに携帯電話といったところだ――を肩に引っ掛けて、
自分のクラスとは階の違うF組にまでわざわざやってきた柳生は、席に座り帰り支度をしていた俺の姿を見つけると笑顔で駆け寄ってきた。
紳士と呼ばれる少々スクエア気味なところがある双子の兄とは違い、彼女は所謂今時の女子学生だ。ふわりと舞ったスカートの丈も、類に漏れず短い。


「俺は語学系は取っていないからな、今日は無い」
「じゃあ一緒に帰ろ?比呂は今からおべんきょーなんだもん」
「雅治は?」
「しらない。どっかで猫とじゃれてるかシャボン玉でも吹いてるかも」
「フッ、そうかもな」


このような小さなこと、普段の彼女ならばメールで尋ねてくることが殆どである。
それがわざわざここまでやってきたのは、俺が学校内に居る間、携帯電話の電源を落としていることを知っているから。
何度か電源を入れておいてとむくれられたが、流すような返答しかしない俺に今では諦めたらしく、自分の足を使うことにしているようだ。

俺が頑なに電源を入れておかないのはルールを守る為。その他に理由があるとしたら。
それは、ほんの小さなことでも俺のために動いてくれる彼女を、俺が見たいが為かもしれないな。

気付かれないように笑みを漏らした俺は、彼女のものとは対照的に膨れ上がった自分の鞄を持って立ち上がると
「そういえばこの間あげたヒヨコ型のシャボン玉、使ってるのかなぁ」などと独り言を言う彼女の背に手を添え、行くぞと促した。
立ち上がると窓から雅治が校舎裏の方に歩いて行くのが見えたが、彼女が気づいていないので俺は何も言わなかった。










無意識の執着みたいな



作成2011.05.12きりん