(ホームシックの夜に 榊独白)





「……嫌な夢を、見たんです」


そう言い、憂えた表情を浮かべ考え込んでしまった彼女を自分の寝室へと招いたのはほんの気まぐれで。
子供がぐずったら、保護者があやしてやるのは当然のこと。ただ、それだけのはずだった。

だが、布団の中で私の腕にしがみつき、瞳を潤ませ不安そうに揺らすその表情を目の当たりにしたほんの刹那。
己が持つ何か……琴線、のようなものに触れたようだ。
初めにこの子を自分の懐に引き入れたときから、漠然とだが目覚めていたらしい“庇護欲”
それがより一層煽られ、私の中で大きく膨れ上がったのを感じた。

嫌な夢とは、おそらく彼女の世界に関する何か。口ごもる様子からまず間違いないだろう。
完全では無いが、共に生活する中で彼女の性格はある程度把握している。
日頃から愚痴や弱音の類をほとんど洩らすことは無いのだが、それに関する時はそれ以上に口を重くする。

それは世話になっている私に、今以上の負担をかけまいという遠慮の現れ。
私にとって、宿を提供することや生活する上での必要物を用意することに大した面倒はない。
金銭が掛かるのは確かだがそれは私にとっては些細なもので、彼女も私のことを知った上でそう理解しているはずだ。

しかし実際は大人と呼べる年齢らしい彼女は相応の思慮深いところがあり、意識的に抑制しているのだろう。
彼女が私へ願うものはほんの必要最低限、我儘や軽口を叩くことはあっても
それは会話を楽しく円滑にする為ふざけているにすぎず決して本気で無いことも解っている。

その姿勢は見上げたものだが、少々危なっかしい。
溜め込むばかりでは解決はおろか、いつか悪い結果を招くだけ―――

頭を撫で続けてやると、腕へ加えられていた力は次第に弱まっていき。
そっと顔を覗き込むとリラックスした様子で彼女はすうすうと寝息を立てていて。
苦しそうに寄せられていたお蔭で、わずかに出来た眉間の山もすっかり消え失せている。

抜け出した左腕はそっと彼女の頭を抱え、右腕で彼女の腰を引き寄せ抱きしめた。
伝わるあたたかい体温に、私の所懐は強く固まる。

そう。私が守るのだ、そうしなければならないのだ。
視界の先は闇に覆われ、自らの世界へ帰るための道が見えず
その場でもがくことしか出来ないこの子は私以外に頼れるものは何も無いのだから。
腕の中のこの子が、これからも穏やかな顔をしていられるように。

何があっても、ずっと。


「……お休み」


髪から覗く額に軽く唇を寄せ、私もゆっくり瞼を閉じた。










なんか気持ち悪い。とか、ちょっと異常?とか、微妙に怖い…
なーんて思って頂けたらしてやったりへっへへー




作成2010.11.27きりん