(ホームシックの夜に)





自分の世界で生活していた自分の身体が、突然砂や灰のような粒子となり音も無く崩れていく。
足先から、指先から。ゆっくりと身体の中心に向かって無くなって。
身体のどこも痛くはないのに、自分が“消えていく”という感覚だけがやけにクリアで気持ちが悪い。

勿論止める術なんて私に解らない。
周りにいるはずの友人は私と会話をしていて、私がその目に映っているにも関わらず
私が消えていくのに気付かず何事も無いように話を続け、変わらず楽しそうに笑っているだけ。
その光景に混乱し、そして酷く絶望を覚え。
ざっ、と。もう殆ど無くなってしまった身体から一気に血の気が引くのが分かった。

助けて!


「―――ッ!ハァ、ハァ…ハァ……」


消え入る寸前のギリギリ、そう叫んだところで私は目を覚ました。
脱力しきった身体をすぐに起こすことは無理だったけれど、どうにか両腕を動かして両手を眼前にかざす。
握り拳を作ったり広げたりを繰り返して。ゆっくりとだけど、ちゃんと指も動くのだということを確かめた。

両手がきちんとあることに安堵感と
その両手が今までの自分のものとはあまりに違った形であることに感じる奇妙な物悲しさが混じり合い
私のこころいっぱいに混濁させていく。

あぁ、やっぱり。

その混濁も次第にいつも同様諦めへと落ち着いていく。
それにきちんと決着をつけこの夜の残りを遣り切るため、私はこれで最後とばかりひとつ大きく息を吐き出した。
そうしてようやく、寝間着にしているスウェットがじんわり湿っていて心地が悪いのと、
息を酷く荒くしたせいで、水分が足りていない喉がひゅうひゅう音を立てていることに意識を向けられた。

ようやくのろのろと起き上がり、備え付けの大きなクローゼットから取り出した替えに着替える。
家主が着るには随分小さく可愛らしいこの洋服たちは、私のためだけに家主がわざわざ用意してくれたもの。
学園に通うための3着もある基準服をはじめ、こちらで流行しているらしいお洒落なデザインの洋服、
クールなジャケットや余所行きの可愛らしいワンピース、ラフな部屋着までどんなシチュエーションにも完全対応。
ズラリと並んだクローゼットの中身は種類・枚数どれを取ってもその辺のショップ顔負けの豊富な品ぞろえだ。

ちなみにこの隣の物入れにはバッグやスニーカー、ブーツなんかが収納されている。
実は物が多すぎて、まだ箱すら開けたことの無いものがいくつもあったりして。
見るたびに申し訳なく思うのだけど、家主にとってはこのくらい何でも無いことのよう。

脱いだスウェットをまるめて手に持ち、夜中という時間帯もあってなるべく扉の音を立てないように部屋を出る。
汚れ物を洗濯機に放り込んで、部屋に戻る前に喉の渇きを癒すためキッチンに立ち寄った。
伏せてあったグラスを適当に手に取って、ウォーターサーバーからミネラルウォーターを汲む。
ゴポリと、タンクの中の水が立てた音が思いのほか響いたのと、殆ど同時にキッチンの扉が開いたので心臓が跳ねた。










なんとなくトリップいいなーと思ったので(笑)



作成2010.11.24きりん