(Scapegoat〜Escape跡部サイド 跡部独白 ひたすらクドイ)





首に絡まる白く細く冷たい腕、涙が溜まって潤んだ瞳、余裕の無い息が漏れる紅い唇。
なし崩しだったが組み敷いてお前を見下ろしたとき、一時的にだがそれらを手に入れた錯覚をおぼえてしまった。


―――っや!…ぁ……けい、ごぉ……


必死に俺にしがみ付きながら絶頂へ到達し、恍惚とした表情を魅せて。
(それは決して綺麗なモンじゃあないのに、涙でグチャグチャなのに。……俺の目には、やけに艶めかしく映りやがって)
律動に合わせただけの意味を成さなかった啼き声が俺の名を音にした瞬間。

そのほんの一時だけ、この全てが俺のものなのだと。何者にも邪魔されることない脳が盛大に勘違いを起こす。
連動するかのように身体もこころもこれ以上無いほど喜びに痺れ、震える。その極上の快感がたまらない。

しかし肌が離れると、途端に大きな焦燥に襲われる。
それは反動なのか振れ幅が大きすぎてとても制御しきれそうに無い。
行き場の無い感情。昇華の仕方が解らない俺は、再び求めてくるお前にそれをぶつけてしまう。

もっとだ。もっと、もっと俺に寄越せ。
あの悦びを味わいたい、何度でも。
真っ直ぐすぎて融通の利かない一途な欲に任せて、俺は自分のために手を差し伸べお前を壊しに掛かる。
手酷く扱うのは、そうするしか得る手段を知らないから。

だが、お前もそれを望んでいるんだ。別に構わねぇだろう?

そうしてまた狂い咲く鮮やかな華の美しさに惑わされ、虜となった俺は徐々に全てを奪われて。
果てはより大きな感覚が俺を支配していった。
ずっと、この手の中に留めて置きたいという、それは単なる、自分勝手で醜いエゴ。


勘違いするな、優しさなんかじゃねぇ。


お前を抱けるのは、お前が俺を求めるという、俺の所為にはならない俺にとっての正当な理由があればこそ。
それが無ければ俺は何も出来はしないんだ。
この状況がお前を苦しめると解っていても、この手からお前を失うことを恐れた俺がそれを選び、行使してしまう。
狡猾で卑怯なただの臆病者。

優しさじゃ、ない。





太陽が落ち、細く尖った薄い月が空の顔となっても携帯にはなんの反応もない。

これまで、俺の方から何かを言ったり誘ったりしたことは無かった。
何もしなくてもお前が先に行動を起こしていたからそれに胡坐をかいていた。
まだこの関係は続いていく、そんな根拠の無い自信だけは持っていて。
口約束すら交わしてない、裏付けなんてまるで無い不安定なものなのにも関わらず。

『今日は、来ないのか?』

信じていたものが揺らぎそうな今。会いたいと、強く思った。
もうこの際、繋がらなくともただ触れるだけでも構わないから。
せめて、お前を実感できる何かを―――



ひとり掛けのソファに腰掛けて。
まるで何かに祈るような恰好で鳴らない携帯を両手で握り締め、


「……全ては俺のためだ。勘違い、すんじゃねぇぞ。………


ひとり、ごちた。










今となっては好きや嫌いといった感情では片付かない、もはや執着。

方向性を見失いました。正しい道は何処…!




作成2010.12.07きりん