(名前変換主はイケメン 設定コテコテなので要注意です 吹奏楽部の株が低いぞーな話なので、そこも注意してください)





「頼む萩之介、匿ってくれっ」
、どうしたの。ん?……あぁ」
「おっ、なんだなんだっ」
ー?」


慌てた様子のは、目に入った教室に見知った顔を見つけ思わず駆け込んだ。
滝の問いかけや、机を合わせて一緒に昼食を摂っていた向日や宍戸の声は耳に入れず、廊下から死角になるよう机の固まりの陰に座り込む。
何かを踏ん付けた感触とそこからふぎゃ!と悲鳴が聞こえたが、騒がれると困るは慌てて声の主を羽交い絞めし、口を塞いでホールドをかける。
その直後、足音がだんだん大きくなって確実にこちらに近づいてくるのが解ると身体は緊張感に支配され、ますますの手に力がこもった。

すぐに上級生と思われる数人がやってきての行方を聞いてきた、それに合点がいった滝はしれっとした顔で通り過ぎたとあさっての方向に指をさす。
それを確認すると礼も告げずにその数人は指さした先へ走って行く。その不躾な態度に、思わず滝は整った眉を寄せてしまう。


「なにあれ。人にものを尋ねておいて、失礼な人たちだねー。あ、。もう出てきていいよ」
「あー、助かった。サンキュー、萩之介。アイツら断ってんのにマジしつけーんだよ」
「3年のときは大分収まってたのにね、勧誘。やっぱり高等部に入りたてだと違うのかな」
「年上な分、言う事きかせ易いとか思ってんだろうな多分。マジ冗談じゃねー」
「ところで、そろそろ放してあげてね」


それ、と滝がイチゴの刺さったフォークでさした方向には、思い切り踏まれ、自分よりひとまわりは大きい体格の良い男に圧し掛かられ、
挙句口を塞がれ息が出来ず、そのお蔭で今やもがく力すら失いつつある可哀想な状態の芥川が。
昼食を食べ終え満腹になった芥川が大胆にも直接床に横になり眠りこけているところに、丁度が勢いよく滑り込んできたのだ。
あとは先ほどの通り。彼が何処ででも寝てしまうのは周知の事実なので、ここでは言及しない。


「げっ!ヤベ」
「〜〜〜〜〜げほげほげほっ!もーっ何すんだよー!」
「わりぃわりぃ、慌ててたんだわ。平気か?」
「マジマジ死ぬかと思ったC〜!俺すっげー怒ってんぞ!」
「あー、マジ悪かったって。ごめん」
「んー。しょーがないからムースポッキー1箱で許したげるー」
「いや、金掛かることは無理」
「えー!超ケチ〜!」


そうなの、俺ってドケチなの。とすっかり開き直ると、新作のポッキーが諦めきれないのか1袋で良いから!と食い下がる芥川の低レベルな争いに、
菓子くらい慈郎なら女子に強請ればいくらでももらえるだろーが、とその騒がしさにウンザリした宍戸が横槍を入れれば、
それもそうかと納得したらしい芥川はさっきまでの怒りも眠気すらも忘れたらしい、楽しそうに教室を出てどこかへ行ってしまった。
本当に誰かにポッキーを強請りに行ったようだ。死にそうになったのに現金なヤツだと、この場にいる誰もがそう思ったが口にはしなかった。
矛先が他へと向き、思わぬラッキーを得たはやれやれと空いている席に腰を掛ける。昼食時に芥川が座っていた席だ。


「あれは何部?」
「吹部。今の木管のレベルが低いから入れってさ」
「あらら。それにしても、入れ、なんだ」
「エラそうだろー?でもアイツらレベルがどうのって言うけど、元を辿ると単に木管と金管の仲が悪いだけっていう」
「あぁ、吹部のそういう話は結構聞くかも。昔からそうみたいだし、もはや代々続く氷帝の伝統みたいなものだね」
「まぁ今のサックスのレベルが低いのはマジらしくて、そのせいでトランペットにソロ持ってかれるのが木管的には気に食わないって話」
「はぁ?何だそりゃ。吹部、激ダサ」
「そーそ。直接言ってやってくれよー、だらしねーぞって」
「ていうかって、良く内情解ってるんだなー」
「ん?あぁ、俺中等部ん時は吹部だったんだよ。1年だけだけど」
「へぇー!上手いのか?」
「へ?楽器?……そりゃーまぁ、しつこい誘いがくるくらいには?」
「あ、そりゃそーだ。馬鹿みてぇな質問しちまったぜ……」
「ぎゃはは!宍戸、ばっかでー!」
「うるせー岳人!」
「ふふっ」


滝はそんな騒ぐふたりに呆れながらも黙って柔らかく笑う。滝、宍戸、向日、芥川の4人は幼稚舎からの幼馴染だ。
宍戸と向日が言い争い、芥川は我関せずと眠りこけ――今はイレギュラーだが――、滝はそんな3人を仕方ないなぁと柔らかい笑みを浮かべそばで見守る。
これがこの4人の在り方であり、こういう光景は日常茶飯のこと。
同じテニス部ゆえ争うこともあり、一時は微妙な間柄になったこともあったが、それをいつまでも引きずり続けるほど4人の絆は柔で無い。

いつもと変わらぬふたりの争いを一しきり眺めると飽きたのか、滝はに向き直るとそういえば運動部は誘いに来ないのかと尋ねた。
氷帝の生徒で運動神経が良いものは大体がテニス部に入っている。跡部の惹きつけるカリスマあってか、ここ数年は特にそれが顕著に現れている。
そのお蔭で他の運動部は常に部員の獲得に奔走している、特にメジャーでない部活は部員が足りず、取り潰されたところも出ているから必死だ。
そういう背景もあり、運動神経が良く部活に所属していないは格好の獲物なのだ。


「運動部は体育会気質だし、キッパリ拒否れば割と諦めてくれるんだよ。……むしろ吹部の方がなー。何かと絡んできてねちっこいっつうか。
ったく。やる気ゼロの俺を引き入れるんじゃなくて、今いる部員の能力底上げしろっての。その方がよっぽど建設的だろ」
「くす、確かに正論だね」
「でもって、時々どっかの部活の助っ人してるって聞くぜ?侑士も確かそんなこと言ってたし」


言い争いも気も済んだのか、向日も話に加わる。向日との友人である忍足はテニス部でダブルスを組むことが多く、部内において特に仲の良い存在だ。
向日自身はと直接会話をしたのが今を含め数回しかないが、その関係からか世間話のうちのひとつとしてのことは伝わっているようだ。


「そりゃ報酬貰ってるからな」
「はぁ!?金貰ってんのか!?」
「違う違う、マックとかファミレスのタダ券とか、良い時は焼肉屋の無料チケットとかな。まぁ金じゃ無ぇけど、金券?」
「ビビった……」
「練習試合は部員じゃなくても大丈夫だからって駆り出されるんだよ。公式で出るのは無理だけど、そんくらいはな」


あわよくばそのまま入部させたいと考える輩も少なからずいるが、人数が足りなくとも、せめて試合はしたいと訴える部員の気持ちを汲んでいるようだ。
本来ならば丸一日アルバイトの時間に充てたいはずの休日にも、余裕があれば小さい対価でも引き受けている。


「ふーん。忍足と仲良いみてぇだし胡散臭い系かと思ってたけど、案外イイヤツだな、お前」
「ただのドケチなイケメンじゃ無かったんだ」
「そうだよ、はドケチでとっても優しいイケメンなんだよ」
「ぶっ!褒めるか貶すかどっちかにしろっ」


ほどなくして望み通りのポッキーを大量に手に入れて戻ってきた芥川は、ご満悦な表情で気前良く分け前を全員に配った、もちろんにも分け隔てなく。
故意ではないにしろ、締めてしまった罪悪感から苦笑いを浮かべ、複雑な表情で礼を言い受け取る
「ねぇねぇ。そういえばこのイケメン、だぁれー?」という芥川が幼馴染たちに向けて飛ばしたすっとぼけた問いに、再び吹き出すことになる。


「お前、知らねーで喧嘩してたのかよ!」
「その上ポッキーねだってたのかよ!」
「ははは……」


という宍戸と向日のツッコミは虚しく空を切り、滝の笑いが呆れかえった乾いたものだったのは言うまでもない。










幼馴染カルテットっていいよね!(宍戸・向日・芥川・滝)※私の中では滝さんも幼稚舎からの幼馴染です
べさまが中等部で仕切り始める前は、この4人が中心だったらいいなー




作成2011.04.18きりん