(名前変換主はイケメン 設定コテコテなので要注意です)





それは中等部の頃からだ。忍足の探し人は放課後、下駄箱に靴はあっても教室に居ないときは大抵パソコンルームにいることが多い。
当たりを付けたパソコンルームの扉をガラリと開くと、静まり返った室内に音が反響する。勢いが良かったのか、中々の大きさだ。
40台程あるうち唯一電源が入っている1台のパソコンの前には案の定彼が、来訪者を知らせる“チャイム”が有ったのにも関わらず、全く気に留めず座っていた。


「やっぱりここにおったな、
「ストップ。あと1分30秒待ってくれ、侑士」
「はいはい、わかっとる」


しかしそれもいつものことだ、と、忍足は呆れたようにため息をつき、そのまま腕を組んで言われた通り彼の言葉に従った。
その忍足にと呼ばれた男子生徒は一応の反応は示すものの、声の主である忍足の方を見ることなくマウスのクリックを続けたまま。
変わらず彼が睨みつけているパソコンの液晶には沢山の数値が並び、いくつかのコマ割りの中には等間隔に動いている折れ線グラフ。
高校生が学校で行うには有るまじき事だが、彼は学校のパソコンで株価をチェック、時折何らかの取引までしていることがある。

一度忍足が学校側にバレないのか聞いてみたことがあるが、その際彼は平然な顔をして
「おいおい、この俺が証拠残すなんてヘマすると思ってんのか?サーバーだってキッチリすり抜けてるから足なんか付かねーよ」
と“イイ”笑いを浮かべながら言い放った。一体どのような方法を採っているかは見当も付かない、むしろ知りたく無いと思った忍足はそのまま閉口。
今でも詳細に思い出せるその顔は、ウッカリ思い出してしまうたび聞くんじゃなかったと後悔させる代物だ。
とても仲の良い友人なのだが、ごくまれにフッと見せる顔が忍足にとって心臓に悪い。
ちなみに、家ではやらないのか。と怖いもの見たさに聞いてみたときの彼は何てことない顔だったが、
その返答が、電気代が勿体ない・ネットに繋げていない・第一パソコンを持っていないという三拍子だったから手におえない。
余談だが、彼はテレビも部屋に置いていない。電気代は基より、受信設備を備えると見てもいない国営放送が取り立てに来るから、だそうだ。

娯楽といえば、CDラジカセでお気に入りの洋楽を聴くことと、趣味のサックス――バイト先のマスターからのお下がり――を吹くこと。
そんなドが付くケチな彼は宣言通り、きっかり1分30秒で睨んでいた画面からログアウトし、くるりと椅子を忍足の方へ回転させた。


「儲かりまっか?」
「んーまぁまぁかな」
「アカンなぁ、そこは“ぼちぼちでんな〜”やろ?」
「出た出た関西人。それよりどうした?」
「ん?あぁ、一緒に服見に行かんかと思うてな」
「お、いいねー。ってか部活は?」
「今日は簡単なミーティングだけ、もう終わったわ。それに、その様子やと携帯チェックしとらんな?」
「携帯?」


忍足の言葉を受け、彼は携帯を鞄から取り出した。
ストラップも何も付けていないそれはシンプルなデザインで、携帯を持ち始めたときから一度も機種を変更していない古いモデルだ。
慣れた動作で時折ランプが点滅する携帯を開くと、ランプが示す通り確かに1件メールが着ている。差出主は常連の洋服ショップからで、
開いて見れば『春の大セール中!タグが付いた商品50〜80%OFF!』という文字と彼の心が躍るメールマガジンだった。
それに目を輝かせた彼は勢いよく立ち上がり、良い知らせを持ってきた忍足と改めて目を合わせた。

立って並んだふたりは丁度同じ背の高さで、運動部の忍足の方が若干筋肉質だが体型も良く似ている。
洋服の趣味も似ている部分があり、近い体型を生かしてお互いが持っている洋服を交換し合ってて楽しんでみたり、良いものの情報交換をしたり。
彼が連れて行き紹介した件のショップも矢張り忍足は気に入り、そのお蔭で今や常連となった忍足の元にもメールマガジンが届いたという訳だ。
そのせいで、同じショップに通う弊害とも言おうか、遊びに行くときに同じ服を色違いで着て来て苦い思いをした―――なんてことも、あるが。
ただし学習した彼らは事前にお互い連絡を取り合い着ていく洋服のリサーチをしているため、その苦い経験は一度だけで済んでいる。


「マジかッ!行く行く、当然!教えてくれてサンキュー。俺、狙ってるジャケットあるんだわ」
「そう思たわ。もう出れるんか?」
「おう、鞄はここに持って来てるし」
「ほな行こか」
「ちょい待ち、パソコンの電源切らせてくれー……って、あん?なんか五月蠅ぇな」


開け放たれた扉の外から怒号が響く。聞き取ろうとするものの、もはや言葉として意味を成していない五月蠅いだけの音に彼は思わず眉を寄せてしまう。
電源を落とし暗くなったパソコン画面を確認すると鞄を持ち、忍足と揃って廊下へ出た。
どうやら騒音の元はパソコンルームと同じ特別教室棟に配された、突き当たりにある生徒会室前からのようだ。数人の生徒が固まっている。


「跡部やな」
「やっぱし?何か騒動があると必ず王様絡みだな、ウチ(氷帝)は。今回は何やったんだか」
「生徒会の乗っ取りやろ。中等部んときと同じや」
「ははっ。入学したら必ずやっとかねーと気が済まねぇんだな」
「ちなみにさっきのミーティングでは満場一致で跡部が新部長やったけどな」


テニス部の面々は中等部の頃跡部に手酷くやられ、その人間性や所業の数々は重々承知しているものばかり。
ましてテニスにおいても全国に轟く名声と裏付けする実力がそなわっており敵わない相手だ、元より反抗しようという気はさらさら無い。
それがあまりにスムーズに事が運びすぎて拍子抜けした跡部は、歯向ってくる先輩たちに手応えを感じ楽しくなってしまったらしい。
扉の前で腕を組み、いつも自信満々な跡部特有の不遜な笑みをますます深くしている。


「おーおー、ご苦労なこった。あんな金にならねーことして何が楽しいんだろうな、ぼっちゃんの思考はわからん」
「跡部の場合は帝王学の一環やからな。家の教育方針とでもいうか」
「ふうん?まぁアイツはほっといたらぶっ倒れるまでテニスの練習してそうなくらい気力有り余ってるし、
生徒会長なんてクソ忙しいポジション宛がった方が発散出来てバランス取れるし、丁度いいんだろうけど」
「……へぇ、ようわかっとるやん」
「は?目立つヤツだし中等部から見てりゃそんくらいわかるだろ、普通」
「さぁ、……それはどうやろね」


跡部景吾という人間は、基本的に自分の内側や己を高めるための努力といった部分を人に見せない、所謂孤高なタイプである。
近しいテニス部の人間でさえ跡部が天賦の才だけの人間ではないと、きちんと理解しているのはレギュラー周辺だけだ。
ふたりは友人同士というカテゴリーでも無く、中等部から今まで一度も同じクラスにもなっていない、単なる顔見知り程度のはず。
にも関わらず、それほど解りにくい相手に対し、普通だと言い放った彼に忍足は内心舌を巻く。
それと同時に、まだまだ彼を掴み切れていないと感じ、どこか面白くないような気持ちにもなった。


「つーか生徒会って中等部での跡部知ってるヤツばっかだろ?無駄な抵抗だって気付けばいいのに」
「そこにおるんは数少ない外部生と、まぁあとは内申目当てってとこやろな、どうせ」
「なるほどな。……おいおい侑士、寂しがるなよー」
「ブッ。いきなり何言うてんねん、思てへんわっ」
「あたッ!痛ぇっつの。まぁいいや、とにかく服見に行くぞ、服」
「アホなこと言うからや。せや、早う行かな良いモン無うなるで」


お前の事も理解してると言外に含ませた敏い友人の頭を一発はたきながら、どこかホッとした忍足は鞄を肩に掛け直し、足を踏み出した。










178センチ(=忍足)62キロ(=跡部)で、イケメン。イケメンなんです!(笑)



作成2011.04.13きりん