(執着の続き ※酷く自己中心的な女の子です。自分良ければそれで良し。後味悪し。 シモネタ?有り)





「……やっぱし変やわ」


キスした後にそうは言うてみたけど、それは今に始まったことやない。
ちゃんと気づいてんで?ウチ。徐々にオサムちゃんに変化が現れてきてたこと。

オサムちゃん、ウチ見る目がだんだん切羽詰まって来てたもんな。
学校内でも、ウチが男子と笑いながら喋っとんの見て冷たい視線くれてたもんな。
その射抜くような眼差し浴びんの、最初はウチもオモロがってたし、
アホみたいに「ウチ愛されとるー!」なんて酔いしれてたけど、ぶっちゃけ最近は少し怖なってきた。

今かて白石の名前出したらどうなるんやろ?ヤキモチでも焼いてくれるんかなー、なんて
軽い気持ちでイチゴオレの流れで話したら、あからさまに声低くなるわダッシュボードに八つ当たりするわで。
あーもう空気悪くなってしもた。なんや、こんなことなら止めとけば良かったわ。
種撒いたんはウチやったけど……キッツイで、ホンマ。

やけど離れんのはイヤ。そうなったらオサムちゃんとセックス出来んようになるやろ?
せっかく友達よりもオトナんなったのに、せっかく友達に言えんようなヒミツが出来たのに。
オサムちゃんおらんくなったらそういう優越感に浸れんくなるやんか。

それから。今更、同世代のヤツなんかとセックスするなんて考えられんわ。
彼氏おる子と喋ってると、痛いだけとか気持ち良う無いとかそんな話しか聞かんし。
オサムちゃんとしとるときは痛いとか感じんし気持ち良いてしか思わんもん。

やでなんでも無いように振舞う。ブー垂れてみる。
時々はオトナでオンナぶりたいけど、基本的にはコドモで何も知らん“ウチ”に徹すんの。
その場その場を切り抜けていければそれでえぇ。我慢や、我慢。
ここさえ我慢出来れば、後は楽しいことが待っとるもん。


「ほな行くで。忘れモン無いか?」
「おん、しゅっぱーつ!」
「はっ、お前はコドモか」


ほら。オサムちゃんに笑顔、ちゃんと戻ったやろ?















「ほな、オサムちゃん。また」
「気ィつけや」


ブルルルてデッカい音立てながら、オサムちゃんの車が走り去るのを見送る。
家まで送って貰ったら家族にバレるかもしれんから、いつも学校の校門前で降ろしてもらう。
この時間やともう真っ暗で守衛のおっちゃんはおるみたいやけど先生とか生徒は誰もおらん、
今まで遭遇したことも無い。

やのになんで白石がおるんや。


「おわっ、ビビッた!」
「……それはこっちの台詞やわ。なんで学校におるん」
「ん?俺はただ、忘れモン取りに来て守衛のおっちゃんと茶ァシバいてきただけや」
「いやいやいや、なんでお茶飲んどんねん」
「そら、おっちゃんが話し相手がおらんで寂しい言うからやなー」


いつもと変わらん様子の白石に、どっかホッとした自分がいた。
オサムちゃんの車からウチが降りてきたんは多分見えたやろうけど、まぁ白石は知っとるし?
他人に言いふらすタイプや無いし、完全に安心しきってた。


「もうこんな時間やし。送ってくわ」
「別に構わんよ?いつものことやし」
「……えぇから。行くで」


白石はウチの手首を唐突に強い力で掴んで。それから、さっきの笑ってた顔を一転さした。
普段見ることの無い、鋭い目が目の前にある。
でもどっかで見た思ったら、いつか付き合いで行ったテニスの試合中に白石が見せた、あのときの真剣なそれ。
いやや、なんで今そんな目ぇするの。さっきまでの、ヘラヘラ笑ってた白石でえぇやん。


「この辺かて物騒なんやで。こんな時間にひとり放り出す神経が解らん」
「だから、いつものことやねんて。今までも何も無かったし、平気やから。な?白石……」
「今まで何も無くても、今日何かあるかも知れんやろ」


ウチが拒否っても、白石は掴んだ手を離そうとせん。それどころか、ますます込める力は強くなるばっか。
なんやの、ホンマ苛々するんやけど。放っといて欲しいのに、なんで構うん?つーか空気読んで?
アンタってウチの何?何気取り?ウチのことが好きなんやったらな、ウチにとって嫌なことすんなっつの!


「……いい加減放してや」

「ウチがやること口出さんといて、うっとおしい」


ぼかしてたけど、何かがキレてもう完全拒否。
感情を隠すなんて出来んし、する気すら起きん。今はただ只管に白石に対して負の感情しか持てない。


「……なぁ。女でいたいだけやったら、別に俺でもエェやろ。面倒なことにならんうちに、手ぇ引けや」
「白石、アンタじゃウチを女にするんは無理。そっちこそ諦めや」


その言葉はウチを心配してるんか、ただ単にアンタの願望なんかは知らんけどな。
我侭なウチを甘やかしてくれるいつも優しい友達の白石しか、ウチにはいらんの。
だからアンタと“男女”になることは絶対に、無い。





それを感じ取ったらしい白石は、何も言わずに顔を伏せて目の前からいなくなった。
伏せる直前に見えた、傷ついたようなその顔に少しだけ。絶対が、ほんの少しだけ揺れるのを感じた。










白石が好きでもましてオサムちゃんが好きでもない。好きなのは、この状況に酔っている自分だけ。



作成2010.03.06きりん