(ト・モ・ダ・チ その後)





。ついに弦一郎が携帯電話を買ったぞ」
「うっそ柳それマージで!?やっりぃ、やっとこの赤ペン先生から開放ーッ」
「ん?それは交換日記では無かったか?」
「これ見てもそー言えたら、すげぇ」


彼女はそう言いながら、一冊のノートを広げ俺の眼前へと押し付けてきた(ん?何やら既視感が)。
そのままでは流石に見づらいのでひとまず受け取り、改めてノートへ目を向ける。

そこには以前一度見せてもらった時そのままの、彼女の手で書かれた“煌びやかな文字”が、
マーカーかボールペンかは解らなかったが、鮮やかな色で彩られずらりと並んでおり。
更にその上から見覚えのある、間違いなく弦一郎の字で所々……いや、ほぼ全体的にだな。
文字の形から漢字の間違い、文法の使い方に関してまで、余すところ無い修正が容赦無く入れられていた。
筆ペンか、わざわざ小筆を使用したのかは解らないが、赤い筆で。

読み進めて行くと、初めは戸惑いが有ったのだろう。
何十行も書いている彼女に対して、弦一郎の返事はたったの一言・二言だったのだが、
徐々に文字数が増えていき、一番最新のページはなんと三行も書かれていた。
ほう、案外仲良くやっているものだな。


「赤ペン先生というより、赤筆先生だな」
「そんなのどっちでもいーし!もうさー、毎回マジでストレスなんだよねー」
「ならば止めれば良かったのでは?」
「だってノート交換するときとかー、真田っちと喋れなくなっちゃうじゃん?そんなのヤダし」
「お前ならば風紀指導のときにいくらでも話すことが出来るだろう」
「もう、やだなぁ。そりゃあそのときも楽しいけどさー、ふつーの話がしたいんじゃん」


まるで小動物が餌を溜め込んだように頬を膨らませた彼女にノートを返却すれば、本当に大事そうにそれを抱きかかえた。
ストレスだなんだと言いながらも、本心からそう思っているわけでは無いことが伝わる。
彼女の云う普通が弦一郎にとっての普通に合致する可能性は限りなく低いが、
先ほどのノートを見る限り、完全では無いだろうが弦一郎が彼女の望む方向への歩み寄りを見せるだろうと推測される。
フッ。意図していないとはいえ、彼女は中々やるものだな。本格的にあの堅物を懐柔してしまいそうだ。


「あ、そーだ。ノート渡すのとアドレス聞きに真田っちのとこ行って来るー!」
「まぁ待て。あと1分43秒でチャイムが鳴る。次の休み時間まで待つのが得策だろう」
「えー!早く聞きたいのにー」
「時間厳守が絶対な弦一郎のへそを曲げてしまっては、聞けるものも聞けないぞ」
「う、言えてるー。じゃあ我慢すっか」


そう言うと、立ち上がろうとしていた彼女は大人しく浮かせていた腰を椅子に下ろした。
抱えていたノートは机の端に置き。次の授業の準備をするかと思いきや、彼女が手をやったのは机の中では無くカバンの中。
(そうだな、お前が次の授業の準備をする確率は僅か一桁。……一瞬でも考えた俺が馬鹿だった。)
そこから携帯を取り出すと、何やら一心不乱に操作を始める。


「何をしているんだ?」
「んー?ちょい待ちー…………よっしカンリョー!」
「……ん?」


目にも止まらない、というのはいささか大げさだが。
そう形容できそうなほどの速さで携帯を打ったかと思えば、何かを即刻達成したらしい彼女は携帯を再び閉じた。
それとほぼ同時に、俺の携帯がポケットの中で震えるのを感じた。どうやらメールを受信したらしい。

今度は俺が自分の携帯を開くと、確かにそこには新着メールが1通。
開いてみれば、それは“ギャル文字”がふんだんにあしらわれたアドレス変更の通知で、予想通り目の前の彼女からのもの。
彼女は気紛れからよくアドレスを変更するので、特に驚きもしなかったが。
慣れた手つきでいつもの手順通りに登録をし直そうとしたとき、はたと気づく。


新アド → sanada-chi_majilove_tsukiatte!! @xxx.xx.xx 登録ヨロシク☆ (あぁ、ギャル文字は修正済みだ)


教師が来るまで、残り12秒。
俺は果たして、この与えられた時間内に込み上げるモノを抑える術を見つけ出せるだろうか。
(頭をフル回転させ、これまでの経験を蓄積した全データに検索を掛けるも一向に光が見えてこない。諦めるな、諦めるんじゃない俺……)





よ、ひとつだけ。これだけは言っておく。
弦一郎がそれに気付く確率は、…………ゼロだ、確実に… 〜〜〜くっ!










黒帽子似合ってる!にしようかと思ったんですが、意味解らないので止めました(*´∀`*)



作成2010.03.05きりん