(ト・モ・ダ・チ続き)





一日中手紙と睨めっこを続けたが、ついに真田は内容どころか差出人の名前すら解読することは出来なかった。
しかし、相手が誰であろうと呼び出しを受けたからには応えてやるのが真の男というものだ。
そう考えた彼は本日二度目となる覚悟を決め、柳へは練習に遅れる旨を告げ。
心には気迫で満たし、いざ行かんとばかりに指定された校舎裏へ放課後になると同時に赴いたのだった。

しかし、ここで困ったことが判明した。校舎裏、とは言うものの。
ここ立海大附属は高等学校も同じ敷地内にあるために校舎裏に当てはまる場所は多く、土地は果てしなく広大。
エリアを行ったり来たりするだけでも一苦労なのだ。

実は、告白のときは“大きな木が1本生えている”校舎裏というのが立海のセオリーなのだが。
(余談だが、柳は当然知った上で校舎裏と発言をしている)
それを知る由も無い真田が必死で駆けずり回り、ようやく辿り着いた頃には日が傾きかけていた。


「あー!やっと来たー!」
「はぁ、はぁ。す、すまん遅くなってしまって……って、女子が足を開いて地べたに座るな!」


大きな木の下で、あぐらをかきながら携帯を弄っているこの彼女が手紙の主なのだろう。
真田が来たことに気が付くと嬉しそうに瞳を輝かせたのがその証拠だ。
ただし、真田を目の前にした今も、画面を見ずに携帯を打つことが出来る彼女の手が止まることは無かったが。
一方の彼は肩で息をしつつ。自分を呼び出した彼女の顔を確認すれば、その顔に見覚えがあることに気づく。


「差出人の名は解らなかったが……お前はF組のだな。蓮二と同じクラスの。」
「きゃーあ!アタシ知ってんの!?マジ嬉しーんだけどー!」
「お前は風紀指導の常連だからな、当たり前だ!」


明る過ぎる茶髪は手入れが丁寧に行き届いており、今時の流行なのか綺麗に巻かれていてフェミニンな印象を与える。
先ほど輝かせた瞳のすぐ上は太いラインで縁取られ、たっぷりのマスカラが乗り大変にボリューミーな目を演出し。
唇に乗るのは可愛らしい薄いピンクのリップだが、その上にはグロスが塗られ艶のあるセクシーさが漂わせている。
中学生と呼ぶには憚られる、そのカンペキに造られ出来上がった外見の評価は分かれるところだが。

真田の評価は絶対的に、不可。
それは彼の風紀委員長としての役職としても、個人的な好みに関してもだ。


「それで。このわけの解らん手紙を寄越したのは、お前で間違い無いか?」
「えー!ちょ、わけの解らんは無いっしょー!それ酷くねー?」
「えぇい、いちいち語尾を伸ばさんと話すことが出来んのか!」


それから、だらしの無い言葉遣いや女らしい言葉遣いをしない女子も不可。
先に述べた通り、彼は昔気質の人間である。
当然、女性に対する好みに関しても“それなり”と考えてもらえれば良い。

ついでに補足するが、がさつな振る舞いの女子も不可。
先ほど彼女があぐらをかいていた時点で既に大きな罰点がついていたのだ。

風紀指導をする度に自分の女性像を次々と覆した挙句、先の手紙に加え今のこの一連の行動を取った彼女に。
とうとう彼は、キレた。


「それからお前!その、けばけばしい形(なり)はなんとかならんのか!何度も言うが、校則違反だぞ!
それに俺は、派手な女は好かん!女はたおやかに、しとやかでないといかん!」


怒鳴る真田は、それこそ地震雷火事……といった災害に匹敵するほど。
男女問わず一般の立海生徒はもちろん、彼の所属するテニス部内でもその威力は遺憾無く発揮され恐れられている。
いち女子中学生が耐えられるような代物では無いのだが、この彼女は違った。


「このカッコも喋り方も、アタシのポリシーだから!
いくら大好きな真田っちにそう言われても、アタシは自分のしたいようにする!自分の意思は曲げねぇ!」


なんと、真田に対しても臆することなく、その上怒鳴り返したのだ。
泣き喚きながら去っていくだろうと考えていた彼にとって、予想外のその行動と真田っちという呼び名には度肝を抜かれた。
そのためにしばし呆然としたが、彼女の発言した内容を自分の中で噛み砕いていたときに、大切なことに気が付いた。
(今は断然そちらの方が大切なので、この際真田っちのことは考えないことにしたらしい)

確かに校則を破ることはよく無い。しかし彼女は、間違ったことは言っていない。
発言から彼女は人に何を言われても“自分”というものを曲げることをしない、
一本の太い芯を持った強い人間だと察することが出来る。

むしろ“女はこうだ”という凝り固まったイメージを押し付けようとしていた自分にこそ、問題があるのでは無いのか?
男女という性差などで決め付けるのでは無く、その人物の人間性を見ることの方が重要なのでは無いか?

彼は初めて彼女に対してマイナスではなく、プラスのイメージを持った。


「……ほう。お前は己の信念というものをきちんと持っているのだな。その格好は好かんが、お前のその気質は気に入ったぞ」
「マジでー!やっりぃ!じゃあ付き合ってくれるー?」

「む……まぁ、なんだ。まずは“トモダチから”というのは、どうだ?」


こうして真田は(相手が意図したかどうかは解らないが)自分に大事なことを気づかせてくれた、
一本筋の通った、真っ当だがまだまだ理解不能な宇宙人との交流を持つこととなった。
先行きは解らないが、彼女は彼にとって何らかの良い影響を与えてくれるのだろう。きっと。


「ね、アドレス教えてー」
「いや、携帯は持っていなくてな」
「え!ケータイ持ってねーの?じゃあ交換日記ってやつするー?」
「構わんが……俺の読める文字で頼む」










人差し指を突き出して「ト・モ・ダ・チ」 未知との遭遇(ETのノリで)  / こっそり40.5ネタも入れてみたり
大和撫子系が好みだとは思うけど、案外ギャル系とかアゲハ系の派手めな子に惹かれたりしそうだな、と。




作成2010.03.02きりん