(3Fへ幸村が遊びに。一応時間軸的には、部活引退後のお話)





時々、休み時間にF組へ遊びに行くといつもこのふたりが笑顔で迎えてくれる。


「失礼するよ。蓮二、さん」
「精市」
「あっ、ゆっきー」


前後に並んだ席順でさんが蓮二を振り返って楽しそうに会話をしている光景は俺にはなんだか柔らかく見えて。
癒されるとまでは少し大袈裟だけど、何故だか時々その空気に触れたくなるときがあるんだ。


「ふふ。相変わらず君たちは仲が良いね」
「あはは、そうかもー」
「フッ、そうだな」


中学生の男女同士で仲が良いだなんて言われたら、普通ならうろたえたり焦って否定したりしそうなものなのに、
このふたりは笑いながらこんなにも堂々とあっけらかんに肯定してみせる。
ふたりにとってすごく大事な、無二の間柄といった感じで。ふふ、なんだか少し妬けちゃうな。

F組では殆ど席替えがないらしくて、この並びでいるのは結構長いんだとか。
ふたりが同じクラスになったのは3年になってからが初めてなのに、こんなにも仲が良い理由のひとつはそこにあるのかもしれない。


「でも正直、運動部っていうかテニス部って近寄りがたかったんだけどね」
「へえ、何故だい?」
「ストイックっていうか色々融通が利かなそうで」
「それはテニス部というより、弦一郎のイメージだろう」
「あっはは!こういうところでも弦一郎の影響って大きいんだなぁ」
「だけど柳とかゆっきーと話してみたら全然そんなこと無かったから、今は平気」


だから今では近寄りがたいのは真田クンだけ、と。
そうしれっと付け加えたさんに、俺だけでなくとうとう蓮二も声をあげて笑い始めた。
それを見てニンマリと笑ってみせた彼女はしてやったりという風。
一見大人しそうで落ち着いた雰囲気なのに、話してみるとウィットに富んだボールを打ってくるから中々侮れない。
そういう部分を面白いと思うからこそ蓮二も気に入っているんだろうけど、もちろん、俺も。


「そだ。ふたりとも、今日も自主練習するんでしょ?」
「あぁ、そのつもりだ」
「じゃあ、手出して?これあげる」


そう言って俺と蓮二の手にそれぞれ乗せたのは、ビー玉みたいにキラキラな飴玉。
俺のは黄色で、たぶんレモン味かな。蓮二のは緑色だから、きっとメロン味。


「疲れたときには甘いものでしょ」


さっきのニンマリとはちょっと違う顔で微笑む彼女を見たら、なんだか物凄く嬉しくなっちゃって。
思わず手の中の飴玉をぎゅうと握り締めてしまった。そうやってちょっとボンヤリしてたら、
突然彼女がいつもの調子でゆっきーと呼びかけてきたものだから、ビックリして咄嗟に言葉が出なくて。
その代わりに笑顔を返せたから良かったんだけど。


「これも持ってって」
「あ……もうひとつ?」
「うん、それは真田クンにあげてね」


もうひとつ差し出され、受け取った飴玉は燃えるような弦一郎を表す赤い色。
その色はとてもよく合うけれど、おそらく味であるイチゴは可愛らしすぎて似つかわしくないような気が。
そんな半ばおちょくるようなチョイスをする彼女から、トドメのひとこと。


「ほう。近寄りがたい弦一郎にも優しいんだな」
「だって。確か3人で練習してるんだよね?だったら一人だけ仲間外れは可哀想じゃない。真田クン、拗ねちゃうよ」
「!」


練習後に俺と蓮二だけが飴玉を舐めていることに対していじける弦一郎を想像したら、思い切り吹き出してしまった。
(蓮二なんて、口元どころか顔全体を両手で覆って必死に耐えてたんだから)










発言が狙ってるのか本気で天然かはお任せします



作成2010.12.16きりん