(3Aと3B)





「おや、トランプですか」


お昼休み、以前仁王くんにお貸しした辞書がなかなか返却されないので隣のB組まで足を運べば
廊下側窓際の一番後ろ―確かここは、さんの席だったと記憶しています―の席を囲んで
目的の仁王くん、席の主であるさん、そしてこのクラスに在籍している丸井くんの3人が
トランプを手にし、何やら楽しそうに興じている最中で。


「おお、柳生。どうかしたか」
「どうかしたか、ではありませんよ。辞書が返ってこないので取りにきたのです」
「そりゃスマンぜよ、今取ってくるから待っちょれ」


襟足から伸びる白い尾を揺らしつつ、のんびりと自席へ向かう仁王くんに溜息をひとつ吐いたあと、改めてトランプに目をやる。
真白いカードに描かれた赤と黒、裏地も特に此れといった特徴を持っていない、よくあるオーソドックスなタイプのそれを

さんは流れるような動作で手にしているカードを2枚場へと放出し、山の上から同じ枚数を取り手持ちに加えると
一瞬だけ僅かに目を細めた後、すぐに澄ました顔に。

一方の丸井くんは動こうとはせず、手持ちのカードと睨めっこ。
どういった戦略にするか決めあぐねているようですが、そんなに表情を険しくしていてはいけませんね。
ようやく動いたかと思えば、彼は手持ち全てのカードを勝負とばかりに場に叩きつけてしまいました。


「しかし学業と関係のないものを学校に持ち込むというのは、あまり関心しませんね」
「ま、堅い事言うんやなか」
「そーだぜぃ、柳生」


戻ってきた仁王くんは手にしていた辞書を私へ返却すると元居たところへ着席し、
机に伏せてあったカードを手に取り、不敵な笑みを浮かべそれを眺めつつノーチェンジを宣言。

詐欺師の名を彷彿とさせるその顔は、これまで何度も試合中に同じものを見てきました。
彼がこの顔をするのは何かを企んでいるときが大多数……また何ぞを仕出かすつもりでしょうか、まったく。


「昼休みだけだから。ね、やぎゅ。大目にみてくれる?」
「え、えぇ。まぁ、いいでしょう」
「ありがとっ」


さんがカードで口元を隠し、上目使いであまりに可愛らしく私を呼ぶものですから反射的に思わず了承を。
私は風紀委員という立場ですから本来ならもう少し言及してもよかったのですが、……それはそれとして。
それにしても、このゲームは。


「……ところで皆さん、ゲームは何を?」
「ポーカーじゃ」
「矢張りそうですか……まさかとは思いますが、賭け事はされていませんよね?」
「あぁ?んなモン菓子だしバクチに入んねーよ」


ガムを膨らませつつ新しく手にした5枚のカードを眺めニンマリと笑う丸井くんは、どうやら先ほどよりは良い手のよう。
しかしなっていませんね、これはポーカーでしょう。
心理戦が主なこのゲームにおいて、それほどまでに分かりやすい表情や仕草を見せては足元をすくわれますよ。


「私ね、丸井の“いちごつみ”狙いー」
「持ってきた俺が言うのもなんだけどよ、子供かお前は。だが俺の天才的引きの強さで絶対負けねぇ」
「でも私、仁王が持ってきた酢こんぶはいらなーい」
「この美味さが解らんとは、残念ナリ。ガムも持っとるがどうじゃ?」
「ガムっつってもパッチンガムだろぃ、いらねぇよ」


ベット(という名のお菓子)とチェンジと不毛な会話を重ね、三人のテンションも最高潮。
コールの掛け声とともに場へ勢いよく放たれたカードが宙を舞う。
ギャンブルの代名詞とも言えるポーカー。この迫力の光景は学校というより、さながらカジノのようにも―――

いいえ、そんなことはどうでもいいことです。
ふう、まったく貴方達は。目撃したのが私ではなく真田くんでしたら目を剥いていたに違いありませ、


「貴様ら何をやっとるかあああああ!!!」


……どうやら、手遅れのようです。アデュー










いちごつみとパッチンガムは40.5のふたりの持ち物を要チェキラー☆
仁王くんが酢こんぶを持っているかどうかは知りませんあしからず




作成2010.12.14きりん