(※「共謀」のつづき)





付き合ってる人間がおる言うんは、断るにはもってこいの口実。
俺は「と付き合うとるから」と、誘いを掛けてくる人間に片っ端からそう告げていった。
の方も俺と付き合うとると言って色々面倒を避けて回っとるらしい。
そういう話はそこかしこから流れてくるし、本人も良い口実が出来てラクや言うとった。

そんな感じに。トントン拍子に上手いこと回るようになったお陰で、
俺ももあんときは慢心して調子に乗ってたんや。

俺らはとにかく、校内ではベタベタしまくった。
指絡めて手ぇ繋ぐのは当たり前やし、じゃれ合うように抱きついたり。
ひと気が無いような場所(やけど、どこかしら人目はあるところ)でキスしたりした。

周りの人間を牽制して近寄らせん意味合いと。
それから、モテる異性を手中にしとるちゅうことを見せ付けるんを込めて。


「いい加減、程ほどにしておけ。そのうち痛い目を見るぞ」


人目もはばからんとイチャつく俺らに、跡部は眉間にシワ寄してそう言ってのけた。
今まで俺らが何しようと全く口出ししてこんかったのに、何や今更。
俺もも意味が解らんと顔を見合わした後、ひとつため息吐いて静かに抗議。
そんな俺らに、更に眉間のシワを深くした跡部は続ける。


「いいか。お前らは気づいて無ぇだろうが、周りのお前らふたりに対しての感情は膨れ上がって破裂寸前だ。 これ以上突くような真似はすんじゃねぇ。」
「何言うてんねん、俺らは上手くやっとるわ。邪魔すなや」
「……人の忠告は、素直に聞いておくもんだぜ。後で泣きっ面かくなよ」
「フン」


言いたいことだけ言って去っていった跡部の背中を何故か直視してられんかった。
そっからは目ぇ逸らして、繋いでた手には知らずに自然と力が入った。が痛いて訴えるそれまで。















――― 思えば。跡部の警告を真面目に聞くようになったんは、あんときから。


あの日、俺とはいつものように手ぇ繋いだまま校内をだらだら歩いとった。
たしか夏休みに入る直前の、クソ暑い日の昼休み。やけにセミが五月蝿う鳴いていて。


「ねー、私たち暑苦しくない?手繋いでベッタリして」
「構わんやろ、校内全部空調かかってるんやから涼しいし」
「周りから見た視覚的な話よ。それにしても太陽眩しいし日差しがあっつい」
「別に周りなんかどうでもえぇわ。もう夏やしなぁ、どや、夏休みプールでも行くか?」
「ふふっ。氷帝テニス部レギュラーが何言ってんの、そんな暇無いでしょ」


跡部が入学式直後にテニス部に殴り込んで、当時のレギュラーを全部ぶっ潰して部長になったんは
ほんの数ヶ月しか経ってないにも関わらず、新入生総代でかました尊大な挨拶とともに既に伝説扱い。
その、今やテニス部部長に納まっただけやなく、今後この氷帝学園の“キング”になるであろう跡部と
結局は負けてしもたけど、中々にえぇ勝負をした俺は当然のようにレギュラー入りを果たした。

元々が強豪の氷帝へ、更に跡部という強選手が加わったお陰でより力が増していて。
都大会を順当に突破し関東大会に挑もうというところ。
もちろん全国も視野に入れ、毎日猛練習に明け暮れとる。


「せやかて毎日カンヅメな訳無いやろ、どっか1日くらい普通に空くわ」
「なら水着用意しておくー」
「楽しみにしと、……ん?」


そうや。あん時は毎日課せられる厳しいトレーニングに疲れてて、感度が鈍ってたんや。
それだけや。俺らは上手いことやれてる。せやのに、


「いやあああ!!」


この焼けるような痛みは一体何なんや?










1年生のときのおはなしつづき



作成2010.07.01きりん