(※柳・忍足の連続(キスキスキス〜等)と設定似てますが別話です。今後シリアスめな展開に進んでいく予定)





強豪テニス部のレギュラーっちゅうことに加え、
自分で言うのもなんやけど、俺の見た目がえぇからって寄ってくる女はぎょうさんおった。
そんなんに慣れきった今やったら適当にいなせるんやけど、
1年のときは扱いもよう分からんから、鬱陶しいてホンマ仕方無かった。
テニスにだけ打ち込んでたいのに周りはそれを許してくれん。ジレンマやで正直。―――















ひょんなことから仲良うなったも、俺と似たような状況に困っとった。
全国区の合唱部内でも飛びぬけた歌唱力を持っとって、それゆえ1年にも関わらずソロなんかを任されることが多く、
その上殊更別嬪さんやったから。


「おお、おはようさん」
「おはよ、侑士」


テニス部の朝練が無い日。
ゲタ箱から靴を出そうとしたトコにが、くわわっ、て欠伸しながら玄関に入ってきた。
(まぁ右手を口元当てとったでオンナノコとしちゃ、もちろん合格や)
そのまま自分のゲタ箱に直行するかと思いきや、関心の視線を
今しがた俺がゲタ箱から取り出したばかりの、右手に掴まれたモンに向けた。


「綺麗な色ね」
「せやなぁ、綺麗な色や。……て自分、突っ込むトコそこかい」
「あと文字も綺麗」
「もうえぇちゅうねん……あぁどないしよ、考えんのめんどいわぁ」
「苦労するね。まぁ、がんばっ……あ」
「人の事、言われんな」
「あーもう、偏見と言われようと私は男が女々しく手紙でーってだけで。駄目」
「まぁそこは真心て取っとき」


今時ベタやなって思うけど、こういう攻め方されるんは割と多くて。
無視するんもどうやと思うから、そのたびに出向いては断りを入れてる。
大抵は引き下がってくれるんやけど、中にはスマートにいかんくて面倒な事になってしまうことも。
……ったく。自分の気持ちばっか押し付けてくる人間を、どないしたら好きになるいうんや。

あぁ、なんや色々思い出したら気分悪なってきたわ。
こういうときは無理に教室行かんと、どっかでクールダウンした方がえぇ。


「侑士?」
も行かんか?」
「どこ行くの?」
「手に持っとる義務を放り出して自由を謳歌しに、や」
「っはは、何それー。基本的人権の尊重とかそういう系?じゃあ義務果たさなきゃ権利得らんないじゃん」
「えぇんや、今まで散々義務果たして来たんやで?バチ当たらんわ」
「そういうモン?」
「そういうモンや」
「ふーん……なら行く」
「そうこんとな」


内履きは再びローファーに履き替えて、
ニッとイタズラっぽく笑って誘いに乗ってきたの肩を抱いてサボタージュ。















「何かいい方法無いかなー」
「アホ。何手紙持ってきてんねん、それ忘れるために出てきたってのに」
「でもさ、何かしないとずっとこのままじゃん」


駅前のミスドに飛び込んで、氷のたっぷり入ったアイスコーヒーで喉を潤す。
夏前っちゅう季節にプラスして走ってきたもんやで暑うて敵わんわ。
目の前に座ったもテーブルにヒジついてぐったりしつつ、冷たいシェイクを啜っとる。
カップと反対の手で悩みの種の手紙をウチワ代わりのようにヒラヒラさせながら。


「何かって、何や?」
「例えば……んー、良さげな断る口実?考えるとか」
「そんなん今まで散々やってきたことやろ。恋愛より部活に専念したい、そういうのは今は考えられへん」
「貴方のことを良く知らないから付き合えないーとかね」
「せやけど。ほっとかれても構わん、軽い気持ちで付き合ってくれればえぇからーとか切り返されてまうやん」
「だから、こんな簡単に突破される常套句よりもっと強力な理由付け」
「そない簡単に思い付くんやったら、こんな苦労してへんわ」


だよねぇ、と今度はがっかりしつつシェイクを啜ったに「それ美味いか?」と聞けば
「甘くて美味しいよ、飲んでみる?」とカップを突き出される。
普段は甘いもんなんかよう食べん俺やけど、色々考えすぎて脳が疲れたんか知らんけどそれは無性に欲しなった。

ありがたく受け取ってストローに口付けてひとくち啜ったときに、パッとひとつの考えが浮かんだ。
口の中がシェイクの冷たさでいっぱいになって、脳がクリアんなったみたいや。
ちょっと道徳的にはどうかっちゅうアイディアな気はするけど、この際手段なんか選んでられん。


「ごちそうさん、美味かった」
「そりゃよかった」
「ところでな、さっきの話やけど。俺らが付き合ってまえば全部解決すると思わんか」


ずず、と行儀の悪い音をひとつだけ立ててストローを啜ったの動きが止まる。
目を見開いて、心底驚いたという顔で俺を見つめたままで。
唐突やったし落ち着くまで長期戦も辞さない心持でじっとの次の挙動を待つと思いのほかそれは早く。


「わかった。それでいいんじゃない」
「俺でえぇんやな?」
「うん。だって侑士と間接キスしてもイヤだと思わなかったから」
「……さよか」
「それにしても、侑士は何でそんなこと考え付いたの?」
「―――さぁな」


教えてよーと頬っぺた膨らませるを適当にいなして、ニヤつく口元を誤魔化すようにアイスコーヒーを飲み干す。
結構な時間をここで過ごしたように思っていたけど氷はまだほとんど溶けんと残っとって、テーブルに置くとカランと音を立てた。

考え付いた決め手?そんなん同じ理由やからや。恥ずかしいて言えるか。










こういう話や展開が大っ好きなのです^^ これは彼らが1年生のときのおはなし



作成2010.06.18きりん