(“所有欲”内「詳しい経緯や内容は省くが、彼女は俺の条件に合っていた。」の、省かれた経緯)





告白をされるということ。
それは俺の日常において決して少ない数値では無い。

その時に紡がれる言葉は大抵テンプレート化されている。
「好きです」その次に続くのが「付き合ってください」
少々形が違う場合もあるがその意味合いが変わることは無く、それは圧倒的多数。

まぁ、それは当たり前だろうな。
その気持ちが無ければ、告白という行動には結びつかないのだろうから。考える必要すらなく、明々白々。

しかし、だ。
先にも述べた通り、俺の日常において告白されるという事項は決して少ない数値では無い。
まぁ、ウチのテニス部のレギュラー連中に比べれば少ない方ではあるが、一般的に視るならば多いのだ。

その事項が起こるとき、俺が閑暇(かんか)しているならばまだいいのだが、矢張り気持ちが先走るのだろうな。
こちらの都合などお構いなしで来られてしまうときなどは……その、なんというか。上手い表現が出来ないのだが。
寛容な気持ちで迎えてやることが出来ない、とでも云うか。まぁ要するに、……鬱陶しいのだ。

それに俺は「閑暇していればいい」とは云ってみたが。俺には暇なときなどは無い。
無いというより、時間が出来たその都度やりたいこと、やらねばならぬことが山のようにあるのだ。
学生の本分である勉強は勿論、テニスの練習、収集したデータの整理や構築、
行事がある時期ならば生徒会の仕事だって増える、趣味の本だって読みたい。

以上のことから、一分一秒だって無駄なことに時間を費やしたくは無いのだ。
俺のことが好きだ、いつも見ていた、などと云う割には、何故彼女らは俺のそういう部分が解らないのだろうか。
常日頃見ているならば、毎日の行動パターンや言葉にした思考等からある程度の人間性だってみえてくるだろうに。
もしかして、ぼんやりと何も考えずただ見ているだけというのだろうか。だとしたら、なんという時間の無駄か……!
それでは一体、俺の何が好きだというのだ、お前たちは。


「何がって。そりゃあ見目が優良で、全国大会行くようなテニス部のレギュラーだし。あぁ、背が高いのもセールスポイントかな」


今まで考え抜き溜め込んできていた胸のうちを吐き出すと、
目の前に座る彼女は自らの煌びやかな爪を眺めながら「それがどうした、今更何だ」とばかりに淡々と応えてくれる。
興味の無さそうな表情をしていたので、聴いているのかいないのか解らなかったが、一応聞いてはいてくれたようだ。


「ほう」
「ちなみに柳くん、テストの結果は学年で何番目?」
「先日の中間テストでは総合1位だったが」
「わーお。おまけに頭も良いときた。いつの時代でも幾つでも、女っていうのは肩書きに弱いもんですよ」
「そうか。まぁテニス云々は解るとして、見目は、その……自覚は無いが」
「ぷっ、そりゃ自分で『俺カッコイイ』なんてね。どこのナルシストだって話」


まぁウチの跡部辺りならサクッと云っちゃうけどね、と付けたし、楽しそうに笑いながら彼女はジュースのストローをくわえる。
オレンジジュースは話をしている間に氷が溶けて“まだら”色。それを啜った彼女は眉間に皺を寄せてから、ストローをかき混ぜた。
かき混ぜながら、口を開く。


「まぁ見目ってのは、個人の好みによるしね」


全体を均一にしたところで、彼女はもう一度ストローをくわえ啜った。
俺もコーヒーをひとくち。少々喋りすぎて乾いた喉を潤すには、温くなったそれは充分だった。


「それで?何だっけ。自分の時間が取れないのが嫌、だっけ」
「まぁ、そうだな。自分の時間が、というよりは、無駄な時間を過ごしたくないという想いの方が強いのだが」
「そ。じゃあ今日買い物に付き合ってくれたお礼に、その願いを叶えてあげる」
「?意味がよく、」
「柳くんの見目、私好きよ」
「……あぁ、なるほどな」


彼女が提案するは、目くらまし。

要は他校に付き合っている人物がいるという事実を作ってしまえば良いのだ。
その話が広がってしまえば滅多な事で告白をされることは無くなるだろうし、
万一されたとしても、いちいち断りの理由を考える必要が無くなる。

今までは「テニスの事しか考えられない」というのが俺の常套句だったのだが、それでも引き下がらない人間はいるもので。
試しに付き合ってくれだの、放っておかれても構わないだの色々言われたりして、これまでは少々こじれた事もあったが。
確かに。彼女の提案に乗れば、その煩わしさから解放されるのは間違い無さそうだ。

彼女は“色々と”交友関係が広い人間で、いつでも好きなように、自由に飛び回る。
その性質からだろうか、特定の誰かに縛られる事を何より嫌う為、
軽率な感情で近づいた相手から熱烈なアプローチを受け、トラブルを起こすことも。
だから俺という人間にこの提案をしたのだろう。トラブル回避の材料になるし、
何より俺が相手ならば、余計な口出しをしたりはしないし、そして余計な“展開”にならないだろうという予測をして。


フッ、面白い。
いいだろう、お前のその提案に乗ってやる。


「……お前のように、考えを廻らせる女には好感を持てる。」
「ふふっ」


俺は彼女の手の上に自らの手を置き、まるで宣言をするかのようにそう言った。
彼女は一度俯いて息を吐き出すように笑うと、顔を上げ、俺を見てから頬を上げた。



―――成立。



利害の一致した俺たちは、こうして共同戦線を張った。
上手く行くこの先だけを思い浮かべて。










呼び方に迷いました。
柳先輩と呼びたいが同学年設定だし、柳さんだと距離遠いし。
蓮二ってそこまで距離近く無いし。やっぱ苗字にくん付けか。




作成2010.02.19きりん