(行動の続き)





ダブルスの2試合は問題なく終了し、次はシングルス3。
氷帝(ウチ)からは忍足が、立海からは最初に聞いていた切原を変更し、柳が出るらしい。
相手が切原ならウチに分があると思っていたが、チッ、まさか立海ビッグ3の参謀殿が出てくるとはな。
今日はシングルス2で、新しく準レギュラーとなった若のデータを採ることに専念するとばかり思っていたが、
……こりゃあ正直、厳しいかもしれねぇな。

それにしても……あの修正が入れられていた対戦表を見せたときから、忍足の様子がどうも可笑しい。
相手が柳に変更されたことに対しやる気になるのならまだ解らなくはねぇが、何を苛々してやがる。
テメェ、そんなんで何時も通りのポーカーフェイスを保っているつもりか?
周りのヤツにはどう見えてるか知らねぇが、俺には透けて見える……心配事があると駄々漏れだ馬鹿が。

ふたりとも、ゆっくりとコート内に入り。ネット際で向かい合う。
忍足はいつもここで、軽く口元に笑みを浮かべながら相手と握手を交わすはず。
相手が初対面でも関わらずそうするし、見知った柳ならば尚更。ひとことふたこと言葉を掛けることくらいするはずだ。
物腰柔らかな柳も同じように返すのが常。しかし、だ。そんな和やかな様子なんぞ、微塵も感じさせねぇ。
練習とはいえ、試合をするのだから必ずしもそうである必要は無い、が。あまりにもこいつらの行動には違和がありすぎる。

忍足は半ば睨むように柳を見遣り、多少目線が上の柳はチラリと忍足を見下ろしたあと一蹴し、踵を返しポジションへ着く。
そのことが忍足を刺激したのかヤツはますます眉を寄せ、聞こえるほどでは無かったが舌を鳴らし同じように踵を返す。

一触即発の雰囲気の中、試合開始のコールが響き渡った。
ゲームは忍足のサーブから。


「―――ハァッ!」


ギャラリーがざわつく。
それもそのはず、ゲームはまず探りから入る忍足なら絶対に有り得ねぇスタートからの全力サーブだ。
ある程度の手の内を知っている相手に、隙を与えず最初から畳み掛けて行く気なのかとも思えるが。
お前解ってんのか?向かい合っているのは百戦錬磨の柳だぞ。すぐにペースを持っていかれるに決まって……


「フンッ!」


……なんだと?
全力のサーブに、まさかの全力リターン。あの柳が、忍足の挑発に乗りやがった。
それからも力任せのラリーが続き、ボールの音はそれを表すかのようにコートに大きく響く。

音は衰えることがねぇまま。
数ゲーム重ねても尚攻撃的なテニスを続けるふたりの間に“何か”あるだろうことが解らないほど俺も馬鹿じゃねぇ。
テメェら……





えぇ気なモンやな、柳。なんや、俺なんか敵や無いって言いたいんか?
せやかて譲らへんで、こればっかりはな。


忍足の感情……この場合は想い、とでも言うべきか。
その強い想いが込められたボールが噛み付くような勢いでこちらに飛び掛り、
それがガットにぶつかりギリギリという音を立てる度、その大きさが俺の心へ直に攻め立てる。
しかし怯んではいけない、受け流してしまうことが出来るほど忍足は生易しくはない。


ふん、真正面から受け止めよったか。
少しでも背けるような真似さらしたら、その隙から一気に付け込んだろ思うたのに。
どんな時でも冷静に最善の対処をするんは流石。完璧で、ホンマにカッコえぇなぁ?
イラつく。内側からガタガタに崩してその涼しい顔を引っぺがしとうなるくらいに。


忍足の持つ彼女への想いの大きさが勝るか、それとも、俺の執着が凌駕するか。
受けて立とう。


―――負けられへん。
―――負けられない。





「―――テメェら!今はテニスの試合中だ、私的な闘争は他所でやりやがれ!」










え、丸9か月ぶりとか\(^∀^)/ひょあー



作成2010.11.23きりん