(※短い)





じわりじわりとくる何とも言えない腰の疼きのせいで、良い気分とはいえない目覚めとなった。
ぼうっとした頭のまま上半身だけを起こし窓の方を向くと、カーテンの隙間からうすぼんやりとした光が暗い部屋に差し込む。
耳へと届いた、バケツをひっくり返したようなひどい水音で雨が降っているのだとはっきり理解すると、
ますます気分は落ち込み気づかないうちに小さな溜息さえ漏れる始末。

今日は起きたら出かけようと、隣でお行儀よく眠る男に条件付きでだけど無理矢理了承させたのが2週間前。
忙しいせいでなかなか予定を抑えられない上、どこか外へ出かけるより家に籠って本を読みたい枯れたヤツだからかなり苦労したのに。
なんだ、お前は自分から出かけようと言ったのに行き先すら決めていないのか?なんて嫌味を言われないように計画まで練ったのに。
昨日までカンカンに晴れてて暑いくらいだったのに、まさか当日に条件に引っかかるとは思いもしなかった。
ただし雨なら出かけない、室内だぞ。ふと脳裏に2週間前に見たため息まじりの声と苦い顔が浮かぶ。
天気の予測をした上で条件付き了承を出したとは思いたくはないけれど、データマンなヤツのことだから有り得そうなのがまたムカツク。
ムカツクから腹いせに眠るヤツのほっぺたを片方、にゅうっと掴んでやると眉根を寄せて嫌そうに頭を捩った。

こんなことをしても当たり前だけど気分も空も晴れはしない、逆に虚しくなったので手を離してやる。
すると眉のしわは消えたけれどかわりに頬が赤く色づいてしまっていて。ごめんと心の中で唱えながら手のひらで頬をさすった。
あったかくて気持ちいいのか、若干表情が柔らかくなったような気がしたので両手で頬を包み込んでさすったりもんだりしてみる。
するとフッと可笑しそうに漏れる息とともに口元が弧を描いた。


「なんだ、起きてたの」
「あぁ。お前が起き上がって溜息をついたときからだ」
「……起きてるのか分かりづらいわ、その顔」
「ん?何か言ったか」
「何も」
「だがお前は、分かりづらいこの顔が好いのだろう?」
「しっかり聞いてんじゃん」


図星を的確に突いてくる地獄耳の菩薩様は油断ならない。
舌戦でこの男に敵わないことは嫌ってほどにわかっているから、これ以上無駄な勝負を挑むことはしない。
まぁ、それ以外で何が敵うのかって聞かれても閉口するだけなんだけど。
とにかく、だるいし雨だし出かけられないしの三拍子揃ったこの上ない気分をこれ以上下げられたらたまったもんじゃない。
逃げるのも勇気、つーか逃げるが勝ち。再び布団に潜り込んでヤツがいる方とは反対を向いて敵前逃亡。
背後からくっくっく、と楽しそうな笑い声が聞こえるけど。聞こえないもん。

完全ストを決め込む私の頭に、ネゴシエーターはやれやれとばかりに大きな手を乗せてくる。
ゆっくりと何度も何度も滑っていくそれは、頑なな心を溶かしてゆく。
身も心もとろりとしてきたころを見計らって放つトドメの一撃。


「そう怒るな。俺の来週の予定はまだ空いているぞ?」
「……雨、降るかも」
「晴れる」


そう耳元で囁き、説得力のある声で断言し。
私を振り返らせることを簡単に成功させた蓮二の顔はしてやったりといった風。
扱いはお手の物と言われてるようでやっぱりムカツク。好きだけど。










原点にもどってみる



作成2010.10.05きりん