(※タスポを持てない年齢な柳さんが、吸っちゃってます。ごめんなさい。)





「……やなぎ」
「ん?起こしてしまったか」
「んーん、平気。それより……」


立ち昇る白い煙。柳の手元から漂うそれを辿れば、そこには一本の煙草。
右手の人差し指と中指の中腹ほどに挟み、時々慣れた手つきで口元へ運び。
一気に吸い込み、少しだけ開いた唇の隙間から勢い良く吐き出す。


「知らなかった。柳が煙草吸うの」
「偶にな。気晴らしに」


灰を、左手に持った灰皿に落とす仕草も流れるよう。
その一連の動作全てが様になっていて、綺麗だと思う。とても。


「スポーツマンがそんなの吸っていいの」
「身体に支障が出ない程度の量を、データから算出している」


……や、吸ってるってだけで身体に多少の支障は出ると思うけど?
まぁ天下の立海大附属男子テニス部達人(マスター)で参謀様な彼に意見なんかする気は無いけども。
(だって無理矢理にでも理由付けて、納得させられちゃうもん。っていうか、言い負かされちゃう)

黙っていると、私の考えていることなんか解ってるって感じで、ふ、と笑って
柳はもう一度、煙草を口に運んだ。


「美味し?」
「そうでもないな」
「じゃあなんで吸うの」
「さっきも言ったろう、只の気晴らしだ」
「ふうん………ね、柳」


身体をのろのろと起こし、ベッド側に腰掛ける上半身裸な柳の背中に飛びついてベッタリ張り付く。
柳は私が目を覚ます随分前から布団から抜け出していたようだ、
外気に晒されていたその身体はひんやりしていて気持ちいい。
寝ていたのと、さっきまでの行為のせいで熱を持っていた私の身体を、ゆっくりクールダウンさせてくれた。

そういえば、かなり勢い良く飛びついたはずだけど、全然身体がぐら付いたりしなかった。
細身に見える柳だけど、テニス部で鍛えているだけあって(今だって、両手首に黒いパワーリストが巻かれてるし)
伊達じゃ無い筋肉が付いているみたい。細マッチョー。


「たば、」
「お前が煙草を吸ってみたいと言い出す確率、98%」
「さすが。ね?ひとくち」
「駄目だ。女に吸わせたくは無い。将来、子供を産むとき困るだろう」
「そんなの。今柳がそばで吸ってるんだから、副流煙ってやつ吸っちゃってるわよ。手遅れ」
「そうだな。それは失礼した」


柳は再度口に運ぼうとしていた煙草を、きゅ、と灰皿に押し付けた。
火が消え、細く白い煙が一筋だけ立ち昇り。散り散りになって、それも消えた。

「あーあ、味見してみたかった…」と名残惜しそうに煙の消えた辺りを見つめる私に、
灰皿をサイドボードに置いた柳が向き直り、がしっ、と私の後頭部を思い切り掴んで噛み付いてきた。
目を閉じて柳の首に手を回すと、触れ合っていただけの唇の隙間から舌をねじ込まれて私のそれを絡めとっていく。
いつもより激しめなキスはとても気持ちが良いんだけど………

柳の舌、苦ーッ!!


「味わえたか?これで我慢しろ」
「……不味い。美味しくない。もう満足」
「そうか、もう一度か。仕方の無い奴だな」
「いらないってばー!」


もう煙草の後はキスしない、むしろしてこないで絶対に。と柳に釘を刺したけど、
くすくすと笑うだけだったから、きっとまたしてくるんだろう。
だって柳にとって、人をからかうことはデータを取るのと同じくらい生き甲斐なんだから。












作成2009.08.27きりん