(※受験シーズンのお話です 短い)





イマドキありえない、エントツ付いたストーブがしゅんしゅんいってる。

(謙也が元々在った電気ストーブぶっ壊したから、
とっくの昔に廃止した旧いタイプの石油ストーブを倉庫から引っ張ってきたのだ)

外と教室内の温度差が激しいのだろう、どの窓も下から順にまっしろになってる。

窓際の一番前の自分の席に座って、ひとさし指いっぽんだけ。
セーターの長い袖から出して、まっしろの窓をなぞる。

斜めにきゅ、と線を引くと。灰色の空からしろい塊がはらりはらり落ちてきているのが見える。


さっきまでの雨が、雪へと変わっていた。





「……白石」
「ん?」


わたしとは真逆の、廊下側一番後ろの白石を振り返ると、
わたしとは真逆の、優等生な白石は受験勉強の真っ最中で。

わたしはもう推薦で女子高に行くことが決まっているけれど、白石はこれからが試験の本番で。
わたしは今ボーッとしてられるけど、白石は今そんなわけにはいかなくて。

わたしと、白石は。この冬が終われば。


「雪」
「あぁ、降ってきたん?道理で寒いと思たわ」


参考書から目を離さず、それでも返事をしてくれる。一分一秒が惜しいくせに。
この優しい白石と、この冬が、

終わってしまえば―――





ガタン


「?」


ガタガタ


「っふ。なんや、どないしたん」
「んーまぁ、別に」


廊下側の一番後ろの白石のひとつ前の席。
白石の方向をしっかり向いちゃうのはなんか恥ずいから、横向きに腰掛け。でも、顔だけは白石の方向。
そんなわたしに、とうとう手を止めて顔を上げた、
微笑んじゃって甘いね。白石。

そんな顔見てられなかったから、わたしは速攻で下を向いちゃうんだ。
あくまでワザとらしく無いように、ごくごく自然な動作のつもりで。
白石にちゃんとそう見せることが出来たかどうかは解らないけど。


「……」
「……、」


自分から近づいたくせに、わたしは話題を持っていなかったから当然沈黙。
白石は気にも留めていないのか、顔を参考書に向け、再びペンを走らせはじめる。

ペンを持つ手を見つめて。
それから、ちょっとだけ思い切ってまた白石の顔が見れるように、ちょっとだけ視線を上に持っていく。

学生服から覗く、骨ばった手首。
ふ・と、気づく。


「……白石って、なんでセーターの袖出てないの。普通出るくない?」
「あ?あぁ。俺、袖ひとつ分折っとるんや」


参考書から目は離さない。
ペンはさらさらと、ノートを黒くしていく。


「え、なんで?面倒じゃない?つかヘン」
「せやかて、袖出てたら服装検査んとき引っかかるやろ」
「うわー、ゆーとーせー。そんなの、そのときだけでいいじゃん。みんなそうだし」
「……ええんや」


ピタ、とペンが止まる。
でも顔は上げてくれない。

よく優等生とかバイブルとか言われて、時にからかわれる対象になる白石だけど。
実はそう言われることをあまり望んでいない白石は、もしかしたら怒ったのかもしれない。


ごめん、わたしは白石を怒らせたかったわけじゃないの。
沈黙が嫌だったの、間を持たせたかったの、知ってたはずなのに考えなしに言っちゃったの。


言い訳がしたくって、慌てて口を開いた。


「白石あの、ごめ……」
「ええんや。こうしてれば……こうやってすぐ、」

「……!、ちょ、っ」


半ば放り投げるようにしてペンを机に置いて。
空になったその手は、


「すぐに。手のひらでお前に触れるやろ」


わたしの。
ぶかぶかセーターの長い袖からちょっとだけ出ていた指先へ―――



ストーブから一番遠いところにいるのに。
白石のピンク色な手はポカポカであったかくって。

なんだか。まだ早い春を告げているような。そんな気がした。



白石。
白石の袖が短いように、わたしの袖が長いのにもちゃんと理由があるんだよ。



( 白石以外の人間に、触れさせないようにするために )










無意味な補足→女子が座った白石の前の席は、謙也の席だったりして
(05.01追記)大事な補足→毒手は部活引退時に財前くんに受け継いだので、包帯は無いということで…!




作成2010.04.29きりん