(※アニメバージョン関東大会立海VS青学戦 短め)





「では、俺達は先に精市のところへ行くからな。弦一郎」
「あぁ。俺も後からすぐ追いつく」


関東大会決勝、2勝2敗。あと一戦で雌雄を決するという緊迫した状況で。
立海大附属のレギュラー陣はこれから試合を控えている真田を除き、
全員が部長・幸村の入院する病院へ向かうこととなった。

幸村は身体を悪くしており、この後すぐに手術が控えている。
本当ならば、決勝戦を3戦速攻で取り余裕を持って病院へ向かうはずだったのだが、
格下と思われた青春学園の奮闘により、接戦に持ち込まれたのだ。

真田は自分のレギュラージャージを桑原に預け、コートに目を向け歩き出す。
ひとりで戦場に向かおうとするその背中を見たマネージャーのは、思わず足を止めた。


「……私、残るわ」
?」
「蓮二、コレ持ってって。精市によろしく」


は自分のしていた細身の黒い革製のブレスレットを半ば強引に柳の手首に巻きつけ、
病院へ向かう他のレギュラー陣に軽く手を振り、小走りで真田の背中を追った。





真田がトレードマークの黒い帽子を被りなおし。
コート内のコーチャーズベンチから立ち上がろうとしたその時、自分に近づくひとつの影に気がついた。
それに目を向ければ、影の持ち主は先ほど病院へ向かったと思っていただった。


、お前何故……」
「私がいなきゃ、誰がスコアをつけるの」


ニッ、と笑い。は真田の隣に腰を掛ける。
胸に抱えていたスコア表を広げ、準備を進めるを真田は驚いた顔で見つめるばかり。
は部内でも幸村と特に仲が良く、幸村の手術を誰よりも心配していた。
そのが幸村のところへは行かずに試合会場に残ったのが少々意外に感じたからだ。


「精市のところへ行かなくていいのか」
「勿論行くわよ。その為に弦一郎は速攻で試合を決めてくれるのよね?」
「……無論だ」


真田は自分をジッと見据えるへひとつ頷くと、ラケットを持って力強く立ち上がった。
皇帝が向かうは戦場(コート)。大きなその背中を、は満足そうな顔で見送った。















―――皇帝は、勝利を手に出来なかった。

戦場から退く真田を、はベンチから立ち上がり迎え入れる。
の前に立った真田は帽子のつばをぐっと下げ、表情を隠し一言「すまない」と呟いた。
その言葉を聞いたは一瞬、戸惑ったが。ふ、と柔らかく笑い。


「お疲れ様、弦一郎」


ぐい、と両腕で真田の頭を自らの胸元に抱き寄せた。










ひとり戦う皇帝にお疲れ様がいいたくて



作成2010.05.22きりん