(常勝立海の後継について捏造&友情なお話。
タイトルの通り、名前変換主は男の子です。赤也くんと同じ2年生で、故障してただ今完治に向けてリハビリ中。)





「おい、ッ!どーゆーことだよ!」
「チッ、うっせぇな。耳元ででっけぇ声出すんじゃねーよ、赤也」
「お前治す気ねぇのかよ?早く治せる良い医者見つかったからドイツ行けって言われてたじゃねーかっ」
「んなモン、俺の勝手だろが。お前が口出しすることじゃねーよ」
「〜〜〜ッ!あぁ、わーったよ。……勝手にしろ!」


バカ!と、ありきたりな罵倒を飛ばすと勢いのまま赤也は部室を出て行ってしまった。
かなり苛々しているのだろう、大きな音を立てて閉じられた木製のドアは未だ軋み音を出しているほど。
まったく。機嫌が悪いからといって、物に当たるのはいただけない。まぁ、赤也の気持ちも分からなくは無いが。


「良いのか?
「良いんすよ、あんなヤツ。放っといて続き、お願いします」


俺のひとつ下、2年生には特に目立つ有望株がふたり居る。
ひとりは先ほど出て行った切原赤也。入部当初から何かと勝負を仕掛けてくる闘争心の強い問題児だったが、
人一倍負けん気が強いゆえ努力による成長速度は目を見張るものがあり、今や“2年生エース”としてレギュラーの座に収まっている。

そして、もうひとりがこのだ。
闘争心にはやや欠けるが、とにかくセンスの塊でどんなプレイもそつなくこなせる技量を持つ。
十分レギュラーを狙える素質だったが部活の練習以外に重ねた無理な自主トレーニングがたたり、年度が変わる直前にとうとう身体を痛めてしまった。
それは完治するが時間を要するもので。現在は治療とリハビリを兼ねた軽い練習メニューをこなしつつ、部活ではマネージャーのようなことをしている。

は一心不乱にペンを走らせていたが行き詰ったらしく、とうとうノート上に転がしてしまう。
そして“参考書がわり”の、これまでの部活における各人の練習内容をまとめた俺のノートを手に取り、
故障や治療についてまとめたページを睨むように眺めながら、随分と伸びてきた髪をガシガシとかいた。


「言葉が難しいか」
「あ、ハイ。知らない並びの“カタカナ”なんかが、こう……」
「医療用語を交えて書いているからな。フム……確かに少々、わかりづらい点があるか」
「医療用語……ってことは、ドイツ、語?とかっすか?凄いっすね」
「とりあえずそのままノートに写しておけ。解りづらい用語は俺が家で解説を書いてくるから、帰りに預けてくれ」
「すんません、ありがとうございます」


お願いしますと少しだけ表情を柔らかくしたは睨んでいたノートを机に置くと、再びペンを走らせはじめる。
ノートの文字を追うため頭を動かすとそのたびに髪が揺れ、襟足が擦れて痒いのか時々首筋を指でなぞった。

髪の長いというのは見慣れないせいもあるのだろうが、何故だか妙な感じがする。
ほんの数か月前まではテニスをするのに鬱陶しいからと、ひと月に一度は髪を切りに美容院へ行っていて。
そのせいで短い印象しか無かったのだが、今や雅治に匹敵しそうなほどの長さにまでなった。
前髪も同様に伸びたまま。百円均一で買ったという針金製の黒いカチューシャを用い、全て纏めて後ろへやってしまっている。
(以前同じものをに貰ったが、これは確かに髪が伸びてきた際の使い勝手が良い。俺も家で勉強やデータを纏めている時に使用しているくらいだ)

ワックスでアレンジをしたりと、本人は長い髪が楽しめて良いなどと言っているが、本心は。
……まぁ、再びテニスを全力で取り組むようになれば、また以前のように短くするのだろう。確率は出すまでもない。


「……お前がドイツ行きを断った理由は、我々立海のため、か」
「うっ………あ、あっ……はははっ!あーもう、流石っすね。はー……柳さんには隠せねーや」


そう言って苦笑を浮かべたは、次の瞬間には感情を全て無くしたような真顔になってしまう。
力なく項垂れ、肘を机に付いて額と生え際の境辺りを頭を抱えるように両手で押さえた。
長いため息、風船の空気が抜けしぼんでしまうようにも身体を縮こませていく。
それに伴い、先ほどより一層頭を下げたおかげでカチューシャが後ろへずれてしまい、抑えきれない前髪がぱらぱらと部分的に落ちてしまう。

肺に溜めていた空気をたっぷり吐き出してしまうと、一瞬だけ息を止めてから再び空気を吸い込んだ。
まるで、周囲全ての空気を吸い尽くしてしまうかのように勢いよく。そして、もう一度軽く吐き出す。
その深呼吸で重い気持ちもある程度吐き出せたのか、パッと手を離して上げられた顔には固さは若干残っていたが自然な笑顔だった。

落ちてきた前髪を鬱陶しそうに上げ、カチューシャをし直すと、目線を若干下げたは両手を机の上で組んだ。


「……早く治るって言っても、せいぜい関東大会が始まる辺りらしいんすよ」
「あぁ」


俺はひとつだけ相槌を打つ。聞く体勢が出来ていると、暗に知らせるためだ。
それを理解し了解したは言葉を続ける。


「そうすると圧倒的に練習量が足りないんすよね。もともと俺の前にいた、日々進化してるレギュラーに対抗どころか、同じ位置にすら立てない」
「ここにいても秋口には完治しますから、新人戦には十分間に合う。ははっ、華麗に活躍しまくって、レギュラーの座を意地でもブン取ってやりますよ」
「何より、俺は王者立海の一員なんすよ。きっと、全国三連覇を成し遂げる先輩達に続かなきゃいけない。途切れさせるわけにはいかない」
「だから今のうちに、一番近くで練習や体制なんかのノウハウを出来る限り学んで盗んで吸収しておきたい」
「天才なんて言われてる先輩たちだけど、始めからそうだった訳が無くて。いっぱい練習したから今の強い先輩たちがいて」
「その中に取り入れるべき練習方法はたくさんある、強くなるために応用の利くことも。俺はそれを、後々の為にひとつたりとも見逃す訳にはいかないんです」
「正しい練習方法を知らなくちゃはじまらない。……やりすぎるバカは俺ひとりで十分です。まあ、俺は取り返しがつくレベルだし?別に悲観とかしてませんけど」
「赤也にそれが出来るなんて思えない。だから俺がやるしか無いっしょ?あのバカはせいぜい自分が強くなることだけを考えてればいいんです」

「だから。今年は、アイツに託すんです。……無様な真似なんか晒したら、絶対許さねぇ」


はじめは淡々としていた言葉に、次第に感情が含まれていく。そうして紡がれる言葉を、俺はただ黙って聞いていた。

努力らしい努力もせず、器用なせいで何でも難なくこなしてきた
そんなは後輩の中では一番クールで、いつもどこか冷めた部分を持っていて。
友人たちに囲まれた輪の中で楽しそうに過ごしてはいるときでさえ、時折ふっと表情が無くなることがあった。

そのにとって今回のことは、おそらく初めての壁。
冷めた人間というものは、すぐに引いてしまう部分があるものだ。
テニス自体やめてしまうのでは無いかと危惧していたが、その心配はどうやら無用のものとなりそうだ。
たくさん悩み、考え抜き、ようやく出したであろうこの結論。俺が想像していたよりもずっと、は強い。

怪我は闘争心を燃え上がらせを本気にさせた、更にチームやライバルを意識させるようになり、次第に仲間意識を植えつけた。
そうして育った芽は着実に大きくなり、チームにおいての自分の立場を理解し、責任感という実に成った。
フッ、怪我の功名とは、まさにこのことだな。


「今は無理でも、いずれは赤也に自分の考えを言うんだぞ。アイツは、言われなければいつまで経っても解らないタイプだ」
「フフッ。あぁ……アイツ、バカっすもんね」
「ただし、理解と協力を得られれば、あれ程までに真っ直ぐ信じてくれる強力な味方もいない」
「解ってます。俺、赤也と一緒にずっとバカやってきましたから。どんなヤツかくらい……解って………」
「あぁ、そうだな。なるべく早く言ってやれ。あまり長く待たせると、赤也は泣いてしまうかもしれん」
「ははっ、そうっすね」
「それで。俺たちの後を……頼んだ」
「……はいっ」


任せといてください、と。強がりと淋しさが入り混じった、複雑な表情で瞳を潤ませた可愛い後輩の頭に手のひらを滑らせる。
照れたように唇を綻ばせながらも、強い情熱が宿っている目に頼もしさを感じながら
俺はもうひとりの可愛い後輩にどういうフォローを入れたものかと思案した。










2010.10.08のブログで書いた「一時期激アツだった妄想」を文字にしてみました。
(その時書いた粗筋とはズレちゃいましたが。)(説得されたから→考えて自分の意志で)
三強はそれぞれが強いし賢いけど“三人寄れば文殊の知恵”な部分もあるのでは無いかと。役割がハッキリしてますし。
だから、次代を担う赤也くんにも、そういう気負うものを分け合える仲間がひとりでもいたら、精神、気持ち的にも良いんじゃないかなあ。……みたいなお話。
2年生で常勝チームの次代を担う重圧を理解しているのは日吉くんと財前くん。本能的に感じ取っているのは赤也くんかなーと思ってます。
立海をより強固なものにーと思い、理解タイプの2年生捏造。ちなみに行き先、ドイツか九州で迷いました。(参考元バレバレですね)
性格は違いますが、この主人公の変化前の本質は不二くんタイプぽいイメージです。そういえば不二くんは立海に転校するかもな話もあったそうですね。
関係無いですが、柳さんが黒の針金カチューシャしてたら可愛いと思いませんか。クシ?っぽくなってるやつ。

長っ




作成2011.03.15きりん