(年上彼女との出会い 短い)





駅ん中歩いてたら、目の前にふらふらしとって今にも倒れそうな女の人がおった。彼女の歩くスピードは俺の半分にも満たないくらい。
邪魔やな、追い抜かしてまおかと横にズレて足を速めたら、その人はとうとう歩みを止めて壁にへたり込んでしもて。
普通やったらスルーして行ってしまう場面、なぜか俺は気になって速度を上げたばかりの足を止めた。まぁ、待ち合わせまでまだ時間もあるし。


「あの、大丈夫ですか」
「え?えぇ、……ありがとう」


息も絶え絶えに力無く笑う彼女はなんや、肥料が足りてへん植物みたいやな、て思うた。
間違いなく綺麗な花やけど、儚げで、野生的な自然とは程遠い。室内に大事に置かれた観賞用。
誰かが常に気にして世話してやらんと、すぐに枯れてしまうような。


「そこ、入りましょう」
「え?」
「えぇから」
「ちょっと、あの」


腕引っ張って強引に立たして、ふらつく彼女を支えながらすぐそばの小さいカフェのガラス扉を押し開けた。
注文さえすれば店内の本を自由に読書出来るこの店は、待ち時間の暇つぶしにたまに立ち寄るところで勝手は知っとる。
メニューを見ずに俺はホットコーヒーを。


「何飲まれます?コーヒー、紅茶、オレンジジュース。紅茶はアッサム、ダージリン、セイロンティー」
「あ……じゃあ、アッサムを、ホットで」
「アッサムならミルクもですね」


浅く頷く彼女を確認してから言われたものを注文する。財布を取り出そうとした彼女を制して強引にふたり分支払うた。押しには弱いらしい。
ほどなくしてトレーに乗せられたコーヒーと紅茶を受け取って、ガラス前に設置された長机にトレーごと置く。
とまどいながらも彼女は何も言わずに俺の後についてきた。横にふたり並んで座って。俺は彼女の前に紅茶のカップとミルクを置いた。
軽く頭を下げた彼女を横目で見てから俺も自分の分のコーヒーカップの取っ手を持ち、息を吹きかけて冷ます。
人の歩みを見ながら湯気の立ったコーヒーをひとくち啜る。ほんのさっきまで同じところを歩いとったのに、今は傍観者。不思議な気持ちや。
その傍観者になるきっかけとなった彼女は紅茶に手を付けず、おずおずといった様子で俺が一息ついたのを見計らい問いかけた。


「あの。どうして?」


―――枯れそうな花には、まず水分やろ。


「さぁ。……何でやろ、俺にもわかりません」


なんて思ったが。そんな失礼なことは口には出さへん。
しれっとした表情を浮かべた頭はちょっとだけ傾けて、両腕は欧米人ばりのオーバーアクションで開いてそんな風に答えを返す。
ただこの答えもあながち間違ってはいない、実際のところ、なんで彼女をここへ引っ張ってきたんか俺自身よう解ってへんねん。


「……ふふっ」


俺がそうしたら彼女は目を2回瞬かせて、一拍置いて笑うた。手を口元へやって、肩振るわして。ホンマに柔らかく、柔らこう笑ったんや。
愛想やなく、心の底からの小さな笑い。特別な花の、滅多に見れん開花の瞬間を見た気がして。
俺はホンマ信じられんくらい、幸せな気持ちに包まれた。
足元ふわふわして、視界はぼやけて不鮮明や。物凄く不安定で怖いくらいなのに、それでも先へ行きとうて仕様ない。


「えっと。……お名前は?」
「侑士」
「ゆうしって、勇ましい戦士?」
「いや、人偏に有するの方」
「侑士くんか。ふふ、道理で」
「何がや?」
「侑って、たすけるとも言うから。私のこと、たすけてくれたじゃない?」
「……へぇ、知らんかった」
「やだ。私、まだきちんとお礼言って無かった」


ありがとうともう一度笑うた彼女を見て、思わず彼女の腕、掴んどった。
何事かと首を傾げた押しに弱い彼女は待ち合わせのことなどすっかりすっ飛ばした俺に言われるまま、
連絡先を奪われ再会の約束を取り付けさせられてしまうことになる。










侑士×年上で儚げな植物系美女って素敵やん
迫力系?肉食系?美女はお姉さま(おそらく)やそのご友人たちなどで見慣れてるだろうけど、こういう系は弱いんじゃなかろうか。
ラブロマンス映画好きだしロマンチストだと思う




作成2011.10.24きりん