(これぞ仁王!みたいなお話を目指したのですが、ところがどっこい。とんだヘタレ注意報)





恋愛とは。どれだけ相手を欺き夢中にさせるかで勝敗が決まる。


今まで幾度もこのゲームに挑み、それこそ初めの頃は何度か負けて面倒臭い事態になったこともあったんじゃけど。
ここしばらくは連勝快勝負け知らずで調子良かった、はずが。今度の相手にはちぃと苦戦しよる。
飄々としていて、色んな手を労して仕掛けるもことごとくかわされてしまう始末。
この俺でさえもこの女が何を考えているんかさっぱり読めん。(うーん、もしかしたら何も考えてはおらんのじゃろか?まさかのう。)

落とそうと決めたんは気まぐれじゃったが、中々に手強い相手にのめり込んでいく自分がおる。
だって考えてもみんしゃい。今までだったら通用していたような王道から、反則スレスレ外道までの手段が全く通用しないんぜよ。
これが夢中にならんとおられるか。今では次にどんな手で行くかを考えるんが楽しゅうて楽しゅうて。
こんなに楽しいんは、テニス以外では久しぶりじゃけの。

だけどのう。
焦りは禁物じゃと解ってはおるが。そろそろ落ちてくれんことにイライラが募る上
「詐欺(ペテン)師」の異名をとる俺のプライドが刺激されるわで、いい加減仕様が無いんじゃが。

そこで俺は強硬に出ることにした。
今のこの状況を打開するために。


「あぁ、さん。ちょっとよろしいですか」
「うん?柳生くん?何、どしたの」
「実は仁王くんのことなのですが」


部室のロッカーから変装用のウイッグと眼鏡を引っ張り出して、制服はきっちり着こなして。
……まぁ要は柳生の格好で彼女の前に出て色々引き出そうというわけじゃ。

それに次の大会に向けて、どれだけ通用するか試運転もしてみたかったしの。
柳生と彼女は委員会だか係だかで何度か会話をしたことが有るだけで、同じクラスになってはおらんはず。
そのくらいの距離感の人間相手ならば試すに値するし、十分イケると予想できる。
万が一バレたところで理由を説明すれば彼女かて納得するじゃろ。


「へ?仁王くんの?」
「えぇ。最近、貴女と話をしている姿をよくお見受けしますので、仲がよろしいのかと」
「んんー、仲良いかなぁ……?あ、確かによく喋るけど」


よく喋るって……そりゃの、確かによう喋るけどな。
ことあるごとにそっちの教室まで構いに行ったりお菓子やったり試合見に来いて誘ったりしてた、この俺を。
仲が良いとは言ってくれんのか?お前にとって俺はそんなモンなんか?
時にはスレスレまで顔面近づけて煽ったこともあったんに、そんなレベルなんかい。


「でも柳生くんの方が同じ部活なんだし、仲良いんじゃないの?」
「まぁ私とは友人というよりも、仲間同士といったところですので」
「ふーん、そうなんだ」


おい。なんや、……なんやのその“どうでもいい”みたいな声のテンション。
ヘコむわ!


「そ、それでですね。次の大会で私は仁王くんとダブルスペアを組むのですが、」
「そうなんだ、頑張ってねぇ」
「あ、はい、ありがとうございます……」


そうそう、コレなんよ。
こうやって彼女は俺の話を流していくというか、スルーしていくというか、ぶった切るというか。
それが彼女のクセなんかと思っていたけど、彼女とその友人が会話をしているのに遭遇したときは普通じゃった。
限り無く普通に、相槌打ったり愛想良かったり話題広げて盛り上がってたりしての……
あ、イカン、ちょっと気持ちが。立て直さんと。


「で!最近の仁王くんなんですが、練習中も何処か上の空でして」
「えー、仁王くんが上の空って割と普通っぽいイメージあるけど」
「あ、いえ……テニスをしているときの彼は真面目なのですよ」
「へぇ、意外」
「それなのに最近はぼうっとしているのが目立つので。何かご存じないかと思いまして」
「ダブルスパートナーってそんな気まで遣わなきゃいけないんだ、大変だね柳生くん」
「……ありがとうございます、私のことはお気遣い無く」


そうやの。まぁイメージに関しては、俺の今までの振る舞いから仕様が無いことやから別段気にはならんがの。
(……それでもゼロでは無いんじゃ、強がらせてくれ)

なんか……めげそうじゃ。
彼女がせっかく労ってくれたのに、それは俺に対してでは無いんじゃ。
普段無表情ばかりでこんな心配そうな顔なんて滅多に見せてくれんのに、それは俺のものじゃ無いんじゃ。


「んーと、ご存じって言われてもね……柳生くんの役に立ってあげたいけど、ちょっと解らないな」


〜〜〜トドメをさすな!
ぐぅ……お門違いじゃと解ってはいるが、柳生が恨めしい。

もう駄目じゃ、このまま続けることは出来ん。
俺のライフゲージは既に一桁、撤収じゃ撤収!


「……そうですか。突然変なことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした」
「ううん?全然」
「よろしければ、これからも仁王くんと仲良くしてあげてくださいね。それでは……」


それでも俺はギリギリまで精一杯、柳生を演りきった。
この切羽詰った状態にも関わらず、自分でも今の俺はカンペキじゃったと思う。
後はここから逃げ出すだけじゃ。

そうして足を動かそうとした寸前に彼女がとった一連の言動を目の当たりにした俺は、
心底凍りついた。


「うん、勿論。だって私、仁王くん好きだもん。それじゃあね、仁王くん」


今のその台詞も、初めて見たニッコリと微笑む彼女の顔も、
踵を返したときに翻るミニスカートから覗いた白い太股も。

これは自分の願望から己が己に魅せたイリュージョンだ、と。
何もかも信じられなかった俺は、本気でそう思った。










ちょっと仁王ファンに土下座してきます



作成2010.03.08きりん