(別学校のふたり)





放課後学校帰りそのままで、こっちのダーツバーに遊びに来る仁王と駅で合流して、
開店までしばらくの間、ファーストフード店で時間を潰すことに。
「ジャンクフードは好かんのじゃ」とか言いながらポテトを摘み、
コーラのストローをぐいぐい吸う仁王を横目に見つつ、私もシェイクを啜る。


「そういえば、制服姿の仁王って新鮮」
「そうやの。お前さんの前じゃ着たてたこと無いけ」
「てか、ネクタイしてるのって意外。まぁゆるゆるだけど」
「普段はしとらんが、今日は服装検査ちゅー面倒なモンがあっての。ウチの風紀委員共は五月蝿いんじゃ」


そう言いながら、仁王はネクタイをするするとほどき、シュ・と音を立てて首から引き抜く。
それを適当にぐるぐる巻きにして、乱雑にテーブルの上に放り投げた。

私はシェイクをテーブルに置いて、仁王が放り投げたネクタイを手に取ってみる。
端と端を持つと、当たり前だが布はピンと張る事は無くだらりと垂れ下がる。
女子用の物よりも若干長い清涼感のあるブルーグリーンのそれがやけに鮮やかに映った。


「綺麗な色。良いなー、こういう色って好きなんだよね」
「氷帝のは赤っぽい色じゃから、正反対やのう」
「ッぐえ!苦しいって」
「おお、すまんすまん」


ネクタイに見とれている私がしているネクタイを、仁王が容赦無く引っ張るものだから。
それもまた偶然なのか狙ったのか、結び目が狭まってせいで首が締まって、ウッカリ変な声が出てしまった。
謝りながらもニヤニヤと。悪びれもしないその様子だと、きっと後者だ。こんにゃろ。

しわしわになってしまったネクタイを取りたいのだが、
結び目が思いっきり小さくなってしまって、解きたいのになかなか解けない。
また首の下という見づらい位置に来てしまったそれなので、どのように絡まっているのか検討も付かない、とうとうお手上げ。
さっきの事もあってちょっと危ないかもだけど、もう面倒だし、仁王に取ってもらおう(まぁ死にはしないでしょ)。


「にお、」
「任せんしゃい」


ちゃんとお願いをする前にまたネクタイを掴まれる。
今度はさっきみたいに乱暴にじゃ無くて、そっと優しく。
まぁ……それはさっきの“やんちゃ”に対する詫びが含まれていると、勝手に解釈しておくことにする。

あんなに苦心したのがウソだったみたいに、仁王はあっという間に結び目を解いてくれて。
引き抜かれた赤のネクタイは私に返されることは無く、そのまま仁王の首に巻かれた。


「なんじゃ、短いのう」
「そりゃ女子用だし」


私も仁王を真似てブルーグリーンを自分の首に巻いてみる。
結び目を緩く大きく取ってみてもそれはやっぱり長い。
きっと不恰好なんだろう。でも、視界に映るその色はやっぱり鮮やかでどうしようもなく惹かれてしまう。
イイ。


「ねぇ、仁王。これ頂戴」
「は?学校にそれしていくんか?怒られるじゃろ」
「ううん?だってウチの学校、決まった制服って訳じゃなくてあくまで基準服だし」
「全体の色合い、可笑しいぜよ」
「そんなの、私の可愛さでカバー出来る範囲よ」
「ぷっ、自分で言うか」
「誰も言わないから自給自足」


GDPとかGNPとか、あの辺は100パーセントよ私。そう付け加えると仁王は押し殺していた笑いを一気に開放させた。
こんなに大爆笑する仁王も珍しい。してやったり、とニヤリとしていると笑い過ぎてすっかり脱力しきった仁王が
自分の首に有った赤いネクタイを指さして「なら、そんな不景気知らずのお前さんと物々交換じゃ」とプリッ、と笑った。
(ちなみに「仁王の景気は良いの?」って聞いたら「お前さんと違って十分な収入があるけぇ潤っておるの」って返された。憎たらし)




翌週、学校にブルーグリーンをしていった。
先生には渋い顔をされたが、
その後級友たちの間では“彼氏とネクタイを交換する”という行為が大流行した。


「ったく、生徒会の議題に上がるのも時間の問題だ。面倒ごと増やしやがって」(後日A部さん談)










ぬおお…!赤が好きなブンちゃんにするべきだったか…!?



作成2010.02.20きりん
一部追加2010.02.26一部修正2010.02.28