(※若干暴力的なので注意 短い)





ズキンズキンという鈍い前頭の痛みと
ギリギリの無理な体勢を取らされているせいからくる首の痺れるような感覚で
さっきまでブッ飛んでいた意識がゆるゆると戻されてゆく。

薄く目を開くと、わたしがわたしの目の前にいた。
すぐに肉食獣のようにギラリと輝く鋭い眼球にわたしが映っているのだと解った。
混じり気無い真黒で温度のなさそうな瞳に映るそれは酷く小さく弱いものに見えて。
驚き目を剥きだらしなく口を開いた表情は汚く歪みきっていて、
ますます わたしは小さく弱いものなんだ という意識を増長させる。

獲物が捕食者を認識したときの恐怖ってきっとこんな気持ちで、
捕食者が獲物を射程範囲に捕らえたときの目ってたぶんこんな感じ。

薄暗い彼の部屋の硬いベッドの上で自らがリアルに体験出来るのなら
わざわざアフリカの砂漠やらアマゾンの奥地やら、
それよりもっともっと近場のサファリパークなんかにだって行くのは馬鹿らしい。
だって野性味溢れた逞しい身体とワイルドな振る舞いまでオマケで付いてくるんだもの。
よっぽどお得でしょう。


「起きろ」


瞳と同様に温度のないような低い声が響くのと同時に一際大きな痛みが頭を襲う。
掴まれたままの前髪をぐいと後方へ引かれ、ギリギリの首はとうとうグキリといやに響く悲鳴をあげた。
その音が聴こえたからなのか、
わたしの口からも本当に小さくて短いものだったけれど色気もへったくれも無い
ギャッというまるで動物の鳴き声のような悲鳴があがったからか、
彼は握っていた手を解放、それと同時にわたしの身体もうつ伏せで再びベッドへ勝手にダイブ。

鼻を強打するのは避けたくて反射的に頬で受身を取った。そのわたしの頭にはまた手が置かれて。
ああ、またあのズキンズキンという痛みと戦わなくちゃいけないの。
うんざりした気持ちで目を閉じると、痛みはいつまで経ってもやってこなかった代わりに
耳を湿った柔らかいものに挟まれた。それは次第に首筋、鎖骨と、だんだん下へ下へ進んでいく。
何かがヌメヌメと這っていくような感触に若干の気持ち悪さとそれを上回るゾクリとした嫌じゃ無い感覚で全身が粟立って。
呼応するようにさっきよりも断然色気のある鳴き声が口から漏れた。―――

瞳や声とは反し、妙に生温かい温度が際立つ捕食の瞬間。
その ぬるさ に浸って逝けるのなら、そんなに悪くない、と。
今まで食べられてきたもの達は誰しもそう思ったのでしょうか。










忍さんのつもり



作成2010.08.16きりん