(※なんとなく甘め 若干短め)





ベッド脇の大きな窓、閉じられたカーテンの隙間から青白い光が差し込んでいる。
ここからじゃ時計が見えないから確信できないけれど、この光加減はきっと夜と朝の狭間くらい。
世の中の殆どが未だまどろんでいるだろういま、私は目が覚めた。


「んんー……っはぁ」


上半身だけ起き上がって、軽く腕を上へ伸ばすと“くきき”という小気味のいい音が身体に響く。
一瞬止まっていた息をひとつだけ吐き出しながら、だらーっと背中を丸めると、身体中にじわりと血が巡ったのが解った。
頭はまだハッキリしていない。
しばらくボーッと座ったままでいたら頭は徐々にハッキリしてきたけれど、まだ寒さが残る春先にキャミソール一枚の上半身は堪えたらしい。
思わず自分の身体を抱きしめたら、両手で触れた両方の二の腕が冷たくなっているのが解った。

我慢が出来なくなって、再び布団に潜り込む。
すれば自分の温かさがほんのり残っていたのと、並んで寝ている“湯たんぽ”のお陰で身体に体温が戻ってきた。

もぞもぞと動いて横を向けばこちら側に顔を向けて眠っている、湯たんぽというか肉たんぽと向かい合う形になる。
特徴あるセットにするためアシンメトリーに整えられた髪の長い部分で、
いつも見えている額を含め、彼の顔半分ほどが隠れてしまっていて寝顔がよく見えない。
手を伸ばして邪魔している部分を後ろへやるも、元々直毛らしい彼の髪はすぐにパラリと戻ってきてしまう。
二・三度繰り返してみたけれど同じ結果になったので、やめた。

まぁ、こういう気の抜けた姿や髪型が崩れた彼を見れる特権はこの先も継続する予定だし。今日はいいか―――


「……なに、どうしたの」
「起きたの?」
「あのね、キミが起こしたの……全く、額が痒くて敵いませんよ」
「あ、ごめんね」
「まぁ、いいけどね」


ゆっくりと目を開けた永四郎が、眉を寄せ薄目で私の姿を認める。
そんな顔だから一瞬怒ってるのかと思ったけれど、声のトーンは普通。視力が悪いからそうしてるんだろう。
眼鏡越しじゃない永四郎の目と自分の目が合う、数えるほどしかその経験をしていないからまだ慣れなくて、ドキリとした。

永四郎はごろりと仰向けになって、布団から左手を出して甲でゴシゴシと額をこすった。
痒みが収まって満足したらしい彼は、そのまま左腕を伸ばしてサイドボードに置いてあった携帯を手探りで探し当て、それを開く。
さっきより一層眉を寄せて目も細めて。ぶつかりそうなほどに画面に近づき、薄暗い中携帯画面の光を浴びながら何かを見ているその姿。
彼にはあまりにも似合わない褒め言葉だけど、必死すぎてなんだか可愛い。
きっとそんなこと言ったら同じような迫力顔で睨まれそうだから、心の中に仕舞っておくことにするけれど。


「なんだ、まだ4時前じゃないの。ちゃんと寝なさいよ」
「なんか目が覚めちゃって」
「横になって目を閉じるだけでもいいから、……ほら」


携帯をサイドボードに戻して、崩れた布団を整えて掛け直してくれてから。
永四郎は枕を使わず右腕を折り曲げ頭の下に置いて、もう一度横になった。
左手は布団の中には仕舞われず、一度だけ彼の顔に掛かった髪の毛をかきあげた後、
布団の上から優しくポンポンと私の身体に下ろされた、まるで私をあやすようにリズムよく。

彼が目を閉じたままそれは幾度か繰り返されていたけれど、次第にスローテンポになって。
すーすーと寝息が聞こえ始めてからは完全に止まった、私の身体の上に左手を置いたまま。

折り曲げられた右腕は髪の毛を押さえつけているらしい。
今度は遮るものが何も無い状態で、見れないと諦めていた寝顔をしっかりと見ることが出来た。
口角が上がるのを感じつつ、私も目を閉じ。世の中や、永四郎と同じまどろみの世界へ舞い戻った。










書いた動機は→ただ単に崩れた髪形の木手くんとラブりたかっただけです



作成2010.04.13きりん