(※木手くんに馬鹿と言われ隊 若干短め)





「私さぁ、……木手くんのこと苦手なんだよね」


そうですか。まぁ苦手でも構いません。
人間、好き好きがありますし仕方の無いことでしょう。

だけどそういうことは。
ふたりきりで、差し向かってお昼を食べながら本人目の前に言うことじゃありませんね。
酔ってるならまだしも、シラフで(そもそもお酒飲める年齢じゃあありませんし、第一ここ学校ですし)。

……もしかして喧嘩売ってるの?
まさかと思うけど、今目の前にいる俺のことを木手だと思ってない?
だとしたらなんなのキミ、馬鹿なの?
むしろ、その方がよっぽど喧嘩売ってるレベルですよ。

フー、と。
目の前にいる失礼な発言をした女は、箸を下ろし食後のお茶で一息つきつつ
やや俯き加減でポツリポツリ自分の心の内を洩らし始める。


「だって。お休みの日に木手くんとふたりで出かけるとき、妙に緊張するし」
「緊張?」
「気を遣うっていうか。何の洋服着ていこうとかすっごい迷うし化粧もなんか力入るし」


そう言われれば、まぁ俺は化粧のことまではイマイチよく解りませんが
洋服は目新しいようなのなんかが多い気はしますね。


「木手くんと一緒にいると、何喋っていいかわかんないし。っていうか……」
「何です?」
「……木手くん前にすると、格好つけたくなるっていうか。ヘタなこと言って変な風に思われたくないっていうか」
「別にそんなの俺は気にしません。自然なキミでいればいいんじゃないの」
「なんか出来ないんだもん。……あとね、木手くんと一緒にいると、身体の具合が可笑しくなる。特に心臓が痛くなる」


確かに。よく言葉に詰まるし、沈黙したときなんて本気で居心地悪そうだねキミは。
俺と話すときは他の人間と話しているときに比べて頬が赤くなるようだし、不審者のように挙動は怪しくなる。
というかね、結構な割合で馬鹿みたいな発言をしているのに、あれで格好つけているつもりなの。


「何より木手くんの顔、まともに見れない」


今もそうだけど、思い返せば俯いたキミの映像ばかりが頭に浮かぶ。
まぁね、キミのつむじを見るのにも飽きたから。
そろそろね、他の人間といるときみたいに、真っ直ぐ前向いてるキミを見せてくれる?


「だからイヤなの。苦手なの。」


あぁ、なんだ。
解ってたことですけど。それは、あれだね。


「……それは、俺のことが苦手なんじゃ無いでしょ」
「え?」
「だから。俺と一緒にいるときのキミ自身が自分じゃ無いみたいで、それがイヤってだけじゃないの」
「あ、そっか」


俺がそう言えば、キミはガバッと勢いよく顔を上げた。
ようやく見れたキミの顔には、目からうろこが落ちたと言ったような、鳩が豆鉄砲を食らったような。
そんな表現が似合いそうな、とにかく馬鹿みたいに口が半開きの間抜けな表情が浮かんでいて。

もうね、お世辞にも可愛いとは言い難いですよそれじゃあ。
色んな顔のキミの記憶をこれから増やしていくとは言っても、肝心な最初がこれじゃあね。
まったく、先が思いやられますよ。


「そっかぁ。でもよかった、木手くんのことが苦手なんじゃなくて」
「はいはい、いいから弁当箱仕舞って。5限はじまりますよ」
「はーい」


それにしてもキミは……究極の馬鹿じゃないの。
自分の気持ちくらい、きちんと把握しておきなさい。

ま、どんなキミでもね。キミはキミだから。
そんな馬鹿なキミが俺は気に入ってるんですよ。言わないけどね。










苦手だと思う相手と何故ふたりで遊びに行くのだキミは^^笑



作成2010.04.08きりん