(※女の子はぽっちゃりさん設定)





学校の掟はひとつ、“笑かしたモン勝ち”。
毎日代わる代わる誰かかんか笑わしてくれるし、ウチもそれ見て笑うて時にはズッコケる。
ウチは自分から笑わしにかかる側よりも、周りのオモロイ話聞いて反応して盛り上げ役に徹するんが常。
自分が笑わす側に立つんは、誰かに自分がぽっちゃりしていることをネタにイジられるときくらい。

正直、体型はコンプレックスやしイジられるんは面白くない。
せやけどブスッとした顔で周りの空気を凍らせるくらいやったら、自分の気持ちを押し殺して笑われた方がよっぽどマシ。
そう考えるほど、自分は根っこから染み付いた関西人やと思っとった。

全校集会中、「ゴメンクサ〜イ」といつもの挨拶からはじまる、ボケ倒しの校長センセのお話の時間。
節々にあるズッコケどころを聞き逃さへんように真剣に耳を傾けては、良いタイミングでズッコケる。
……ちょっとくらいズレたって構わへんのやけど、トロいとまた格好のネタになってしまうから。
やけど一生懸命やりすぎて、勢い余って足を挫いてしもたんはアホやった。


「うあっ!ッたー」
「ちょ、大丈夫?」
「ホンマ凄い音したで!立てるかー?」
「あかん、立てん。結構思い切りいってもた……」


周りの子が心配して手ぇ貸してくれても、どうにも立てんくて。
膝ついてプルプルしとったら周りから「なんや出産か!」とか「生まれたての動物かー」とかはやし立てられて。

それはいつものネタの一環やって解っとるけど。
ひねった足首が痛いんか、あまりの大人数の前でネタにされたんで気弱んなったんか。
どっちかは知らんけど、なんやズキンズキンと身体が痛うて痛うて仕方ない。

アカン、笑わな。黙ったまま下向いとったらアカン。
泣くなんてのは。一番、アカンで……


はん。大丈夫か?」
「……へ?」


肩にポンとおっきい手が乗っかる。
顔を上げると、銀さんが心配そうな顔でウチを覗き込んでて。
急に声掛けられてビックリしたお陰か、目頭に溜まった涙は流れんと止まった。

銀さんは「立たれんのやな?ほな失礼」て、ウチにひとつ確認して。
呆気に取られつつコクンと頷けば、即座にこのぽっちゃりをサッと抱き上げたのだ。
それはもう軽々と、重さなんて微塵も感じさせんような雰囲気で。


「銀さーん!なんや、ベンチプレス持ち上げとんのかー」
「おいおい、筋トレ始まったでー!」
「師範、まだ部活の時間にはちぃと早いでー」


あまりにも自然すぎる流れに何が起こったか解らんかったけど、聞こえてきた声で状況を理解できた。
再びネタの中心になってしまったのと、
自分だけや無うて、銀さんまでネタに巻き込んでしもて申し訳ない気持ちに加えて
まさか銀さんはウチをネタにするためにこんなんしたんやろか、なんて嫌なことまで考えてまう始末。
悔しうて止まったはずの涙がまた流れそうになったそんとき。


「―――やかましいっ!」


ビリビリと空気が震えるような怒号が響き渡った。
実際、肌が触れ合うてるウチにはその振動が思い切り伝わってきて。


「おのれら、黙らんかい!怪我人の傷に障るわ!」


もう一度響き渡る、地を這うように低くて爆発的に大きな声。
地雷でも破裂したかのような衝撃に、講堂はシン、と静まり返る。
先生も生徒も絶句、ノリノリやった校長センセも口をあんぐり開けたまま。


「ぎ、銀さん。声大っきくてウチ心臓止まるかと思た……そ、そっちのが傷に障るかもしれんわー……はは」
「む?おお、すまんなぁ、はん」
「う、ううん。大丈夫!」
「よっしゃ、ほな行こか」


誰も言葉を発することが出来ない空気の中で恐る恐る銀さんに声を掛けると、
返ってきたんはいつも通りの穏やかな口調と優しい微笑みやったから、安心してちょっと口元が緩んだ。
やっぱ銀さんはこうでないと。

後で友達から聞いたんやけど、銀さんがウチを抱えてのしのしと歩いてって扉を一歩出た瞬間、
「はぁ〜っ!」と緊張感で張り詰めていた講堂は安堵のため息でいっぱいになったんやって。















「ごめんなぁ、重かったやろ。ヘタしたら米俵よりデカいでなぁー……あ!次抱っこしてもらうまでにはダイエットしとくで」


生憎お休みしてる保健室のセンセの変わりに、銀さんが挫いた足首の手当てをしてくれた。
運動部やし誰か怪我するんはしょっちゅうなんやろう、手馴れた風に包帯を巻いてくのに思わずホレボレしてしまう。
せやけど、あんまりじいっと見つめてたら変に思われるかもしらんし。それに、お互い黙ったままやでなんや沈黙が痛い。
慌ててこの空気を茶化すように、ネタっぽく銀さんに感謝の言葉を伝えてみたら


「なんも重くなんか無い。―――わしは、少々ぽっちゃりしとる方が好みや」


銀さんは笑わんと。
目の前に跪いたまま、ソファに座ってるウチを見上げながら真面目な顔でポツリポツリと話し出す。


「それから、嫌な事言われても顔に出さんと周りに合わせられる大人なおなごは……もっと好みや」
「やけど嫌な事は溜め込みすぎたらいかん。今後は誰かに」
「……いや、わしに頼ればえぇ」


紡がれた言葉の意味を理解したウチの顔はすっかり真っ赤になってるんやろう。
だって頬っぺた熱い。


「銀さんも女子が好きなんや……」
「そら、そうや。わしかて中学三年生やけの」


そう言って口の端っこあげて笑った銀さんの顔も赤くなってた。





それからも相変わらずぽっちゃりしてることをようネタにされたりする。
せやけど、もう傷つかん。
銀さんが言ってくれた言葉を思い出せば、イジられても今までどおり笑顔のまんまでいられるから。

なぁ、もうちょっと溜まったら……勇気が溜まったら。頼りに行くから。
それまで待っとってな、銀さん。










銀さんに抱っこされたい(´д`*)



作成2010.05.31きりん / 『私の彼は左きき!』様へ  再び素敵な企画に加えてくださり、本当にありがとうございました!