(※オサムちゃんは美術教師ということで)





唐突に授業をサボりたくなった。
別に大した理由なんて無い。

朝から4コマ続けてずっと教室での授業で座りっぱだったから、なんとなくお尻痛いし。
5限目前ってそういう気分になるモンだし(だって昼イチで数学とかありえない)
何より昼ゴハン後だから、ちょっと眠りたい。牛になってもいーわよ別に。

時計を見ると昼休み終了まであと5分。先生が来ちゃうと理由付けが面倒だから。
とりあえず携帯だけ引っつかんで近くにいた友人に「サボってくるわ」と一言告げて教室を後にした。
そんな私に彼女は「わざわざ言うなんて律儀やねぇ」と、軽く笑う。
まぁこれで先生に何か言われても言い訳というかフォローをしてくれる。クールそうに見えるけど彼女はそういう人間だ。

さて、どこでサボろうか。

保健室。具合が悪そうなフリをするくらいお手の物なんだけど。
今はひとりでのんびりしたい気分、先生や場合によっては他の人間がいる可能性があるからパス。
屋上。春のうららかな陽気の中でのお昼寝なら大歓迎なんだけど、今は日差しが厳しい。
1時間も経てばコンガリ丸焼けになってしまう、白い肌を維持したい私にとっては死活問題。パス。
中庭。芝生やベンチがあって、日陰になってくれる大きな木があって昼寝にはもってこい。
だけど職員室がある校舎に思いっきり面しているからサボれるわけなんかない。パス。
校舎裏。ジメジメ湿っぽい。虫が多い。なんか臭い。……いいとこなんて、無いじゃないの。パス。

思い当たるサボりスポットで残ったのは。


「やっぱ、美術準備室かな。第二の」


特別教室棟の最上階、いっちばん端っこだからちょっと遠いけど。
第一美術室とは違って授業ではあんまり使って無いし。
教科担当もだいたい第一の方の準備室か職員室にしかいないから、本気で人がいない。
常に不気味に静まり返っていて、行ってみると案の定いつも通りの静けさを保っていた。


「やったね」


そっと扉を閉めて、準備室に入る。少し熱気がこもっているから一つだけ窓を開けると、涼しい風がカーテンを揺らした。
快適な空気になったところで、準備室の隅っこに置いてある蒲公英色のソファにゴロリと横になる。
つーかこの大きいソファ、誰が持ち込んだんだろう?
オサムちゃんあたりかなー。ま、誰でもいいや。借ります。

お腹が冷えないように、置いてあったこれまた誰のか知らないタオルケットを引っつかんでお腹に乗っける。
(小さい頃から寝るときの習慣で、これをしないと落ち着いて寝れない)
目を閉じて次第にウトウトしだすと、ガラリと準備室の扉が開いた。
誰も来るはずが無いとタカをくくっていたからかなりビックリして。
「うあっ」とか叫びながら起き上がって入り口に目をやると、ボーッと突っ立っている物凄くデカい男子生徒と目が合った。


「おっ、先客ばい」


一瞬だけ目をまん丸に見開いた後、へにゃりとかなり癒し系な笑顔を見せてくれたその人は、
学校の制服とは違う服着てるし、名前は知らないけど多分この間転入してきたばっかの先輩だろう。
背めっちゃデカい人来たってウチの学年でも噂になってたし。
それにしても師範先輩よりでっかい人なんて、この学校ではじめてみた。

俺も寝ようと思ってここ来たとー、とこっちに(というかソファに)ガランガランと下駄を鳴らして近づいてくる。
なんで下駄履いてるんだろうこの人。その音がさっきまでウトウトしてたせいで呆けてる頭に響いてツライ。


「あー、スンマセン。お先です」


そう言われても、たとえ先輩だろうとも、譲る気なんか無い私はソファの上に鎮座したまま。
暗に「他探してくれ」とオーラを出すも先輩は動かない。え、もしかして場所奪う気?やだー!
そんな私に気づいているのかいないのか。
腕を組みしばし思案した先輩は“あ・いいこと思いついた”と言わんばかりに手をぽむ。と。(手のひらとグーの手をぶつけるアレ)
……そんなのする人、久しぶりに見た。


「なら一緒に寝るたい」
「え、スペース的に無理です」
「よかよか。これソファベッドなん。知っとう?」


先輩がニコニコ笑いながら手を延ばして何か操作をすると、ソファの背もたれ部分が倒れて見事ベッドの形に。
へぇ、こうなってたんだ知らなかった。というかこの人……まだ来て日が浅いのに、既にサボりの常習犯とみた。
呆れつつぼうっととそんなことを考えていたら「そっちいくばーい」とかなんとか強引に奥の方に押されてしまう。

その力のままに奥へ行くと、今まで私がいた、手前の空いたスペースに先輩が転がった。
背の高い先輩は思いっきり足がはみ出していたけれど、特に気にしていないようで。


「な、一緒に眠れるど?」


そう言い残すとさっさと眠りの世界に堕ちていった先輩。
その寝顔を見たら“一緒に寝ること”に関して抗議しようと思ったけど、どうでも良くなった。

しょうがないなぁ、とひとつだけ。小さく軽いため息をついてから。
私はだらりとこっちに伸ばされた先輩の左腕を勝手に枕にして寝転がって。
それから、タオルケットを半分先輩のお腹にかけてあげた。
まぁ先輩にとっては布が足りないしデカいから位置も微妙だけど、無いよりマシでしょ。

とりあえず私も寝よう。
それで起きたら、まず一番に先輩の名前を聞いてみよう。





もう一度私がウトウトし出すと、先輩の足にぶらぶらと引っかかっていたらしい下駄が
先輩が身じろいだお陰で思い切り派手な音を立てて床へ、落ちた。

完全に目、覚えたわ……










お外に出すからと、タイトル気張ったのは内緒^^えへへ



作成2010.04.07きりん / 『私の彼は左きき!』様へ  素敵な企画に加えてくださり、本当にありがとうございました!