(※悶々とする跡部 若干甘めかと)





「―――お前のこの気の落ち着け方だがな、俺にとっちゃ逆に気が高ぶるんだが」
「それでも拒まないし手も出さないのが跡部クオリティだもん」
「……ち」


朱色の夕日が差し込む放課後の教室、窓際後ろの壁にもたれかかって
いつもなら絶対にケツを付けることをしねぇ床に直に座って胡坐をかく。
膝の上には俺に跨りベッタリ(っつーよりも背中に腕回して渾身の力でガッチリホールドだ)抱きついている女。

胸に顔を埋めたコイツが喋る度に口の動きやら吐息やらがくすぐったくて敵わねぇ。
正直、いい加減離れて欲しいモンだが今離すと余計に長引きそうだ。
一回こうなると、コイツはテコでも動こうとしないのは今までの経験上解ってる。

だから面倒でも、コイツが落ち着いて満足するまでは待ってやるんだ。
それから、少しでもこの時間が短縮できるよう腰に左手を回してやって、右手は後頭部にやって少しだけ俺に引き寄せる。
そうしてやりゃ、さっきまでは多少遠慮してたらしいコイツが徐々に腰を寄せてくる。
ほんの少しだけ空いていた下腹部辺りの空白もそれで隙間が完全に埋まり、より一層俺たちの一体感が増したように感じた。

心音が身体中に響く。
それはどっちのモンかは解らねぇ、何故なら俺にはひとつ分しか聴こえてこねぇから。
どっちかひとつが止まってるはずなんて無ぇから、同じ速度で同じリズムを刻むこれでふたり分なんだろう。
なんだ、身体だけじゃ無くて心臓までくっついちまったか。

なんとなく後頭部に置いたままの右手を動かして、指を使って髪を梳いてみる。
すればふわりと漂ってきた香りに、訳も無く心が跳ねやがって。
お陰でくっついていた心臓はバラバラに、ふたつになった心音は片方だけがやけに早ぇ。

その音を落ち着けてようと、髪を梳くのは止めてさっきまでしていたようにただ抱きしめるだけにする。
だが、一向に収まらねぇ。何故だ。むしろ酷くなってきた気さえする。
コイツを落ち着かせるはずが、本当に俺の方が駄目っぽくなってねぇか……?
(さっき言ったのはあくまでジョークの一環だったんだがな。)

俺はただ、さっきみたいにコイツと“ひとつ”だという感覚をもう一度味わいたいだけだ。
だが一旦速度を上げた音は止まることを知らずに、元に戻る様子なんざねぇ。
なんてこった、テンションの下げ方が解らねぇなんてガキじゃあるまいに。

そうこうしているうちに、胸に顔を埋めたコイツが位置が悪くなったのか身じろいだ。
それと一緒に髪が揺れたお陰で、再び鼻に届いたその香りに反応したのか体温が上がるのが解った。


「跡部、……硬くなったね」
「ッ!?」
「鍛えてるんだねぇ、筋肉。胸板が前よりも厚くなった気がする」
「……あぁ、そうかよ」


心音の速度が上がりすぎて、一瞬だけ止まったぜ。
……ビビらせんじゃねぇよ馬鹿が。


「つーか硬くてあんま心地良く無い」
「うるせぇ、黙ってろ。胸借りてる身のクセに文句言いやがって」
「でも跡部の匂い、好き。気持ちよくてドキドキする」
「ドキドキってお前、落ち着きたいんだろうが……あ?」


ふと気が付くと、さっきよりも幾分速度は上がっていたが
いつの間にか俺らの心臓はひとつに戻っていた。

上がった体温のせいで身体が溶けたのか、
それはさっきより一層“ひとつ”にまじわったように思った。










だって、悶々としちゃう。オトコノコだもんっ



作成2010.02.23きりん