(短い)





9月はじまってすぐ、まだ夏が名残惜しかったあたしとダビデはふたりで海岸までやってきて海あそびをしていた。
そしたら空もあたしたちと一緒で夏が名残惜しかったみたいで、物凄い勢い、見た事ないけど多分スコール並みの
すごい土砂降りの雨を降らせてきた。夏の通り雨。たぶん、これがこの季節最後。

石段を登ってガードレールを超えて、県道まで戻れればちょっといったところに銭湯でも何でもあったけど、
降り始めてからほんの少しで前も見えないくらいの雨になっちゃったから、この状況で動くのは危ないと思ったあたしは
ダビデを連れて解体されずに残ってる空っぽの海の家にひとまず逃げ込んだ。

青のトタン屋根が物凄い勢いで雨に弾かれてて、ちょっと大きな声を出すか近寄らないかしないとお互いの声が聞こえないくらい。
ましてダビデはボソッとした喋り方だし口数も少ないから、あたしはもう遠慮無くダビデのパーソナルスペースにガンガン入り込む。
ちっちゃい頃から遊んでる幼馴染だし、今はびしょ濡れだから少し距離は空いてるけど、ピッタリくっついたところで今更だ。


「うっわー、降られたねー!もう制服びっしょびしょだよー」
「まさかこんなところで降られるとは……油断したな」
「ホントホント。でも明日土曜日で良かったよねぇ……って、え………ダビデ、だよね?」
「ん?そうだが」


隣に立つダビデを見上げると、ダビデ像みたいに彫りの深い顔立ちの横顔はいつもと一緒だったけど、
あの雨には整髪料三個遣いでセットした難攻不落のダビデの髪も流石に耐えられなかったらしい。
ボリュームは落ち、亮ちゃんまではいかないけどストレートに近くなった髪は肩に付いてしまっていて。
髪の毛でいつも通りなのは、わずかにクセ付いた襟足がうねってるところくらいで。普段と印象が全然違う。

―――あれ?

ダビデって、こんなだっけ。
ダビデの背って、こんなに高かったっけ。
腕とか身体とか、こんなにがっしりしてたっけ。

なんか、もう、男の人って感じじゃん。

今まで“男の人”相手に軽口叩いたりふざけて抱きついてたり腕組んだりしてたわけ?
そんなことあたし、今までどんな顔で、どんな気持ちで、どんな感じでしてたんだっけ?

そんなことに気づいちゃったら何だか知らない人が側に居るみたいで、妙にそわそわしてきた。
なんだか落ち着かない。
それに、髪の毛がボサボサじゃないかな、とか、濡れた制服透けてないかな、とか、
そんな、いつもだったらダビデ相手になんか気にならないことまで気にするようになっていた。
え?何これ何これ、何これ!

風邪引くなよ、とラケットバックの中で無事だったらしいタオルでダビデに頭をガシガシされてる間、
ぐるぐるとそんなことを考えててたあたしはドキドキしすぎて生きた心地がしなかった。
うう、片手でもあたしの頭がすっぽり収まっちゃうくらい手も大きいとか、そんなことまで、今更……



「ふぇっ!な、何っ」


ますます男の人だと意識してしまうような低い声でボソッと名前を呼ばれて、
思わずドモッて返事をしちゃったあたしに一瞬不思議そうな顔をしてから、ダビデがもうひとこと呟いた。


「体調崩したら、たいちょーに怒られるぞ……ブッ」
「隊長って、いったい誰のことよ……」


………あぁ、ダビデだ。間違いなく。

改めてそう確認して、あたしは思わず脱力した。
男の人っぽくなろうと、ダビデは相変わらずダビデだ。別に全然構える必要なんてないじゃない、だってあのダビデだもん。
はー、もう。サエさんならともかく、このダジャレ男にドキドキする日が来るなんて思わなかったわよ。





そんな初めての発見にドキドキしつつ、でも中身は全然成長してないってことが解ってちょっと安心していたあたしには、


(むう。、こんなにちっちゃかったっけ。だが……こっちは中々おっきく……って、いや!バカな!何考えてる、俺!)


また別のところでダビデが葛藤してたなんて知る由もない。










自分で書いておきながら何これはずかしい!!!口元むずむずする!!!(笑)



作成2011.07.23きりん